住民票と合わせた国民管理の方法の一つである「戸籍」。住民票に比べると、日常生活で必要な場面が限られていて、ちょっと縁遠い存在になっています。戸籍というと同じ名字じゃないと同じ戸籍に入れないという事情もあって、夫婦別姓の機運が高まるにつれ「戸籍って本当に必要なの?」「戸籍って実は要らないんじゃないの?」「実は戸籍制度なんて廃止した方がいいんじゃない?」と面倒なイメージで考える方も増えてきていると思います。

そこでこの記事では、①戸籍が今どんな役割を果たしているのか、②実際に戸籍が必要なときとはどんな時なのか?について、解説します。

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戸籍の役割とは

住民票と戸籍の関係

日本の国民管理の方法が複雑だといわれる理由の一つが、「住民票」と「戸籍」のお互いに連動する2つの証明書が存在していることだといわれます。あまり知られていないことですが、実はこの住民票は途中からできたもので、戸籍が初めて作られた明治初期は戸籍だけで住民票の機能も果たしていました。

「戸籍の歴史」の解説記事戸籍制度の歴史とは?いつから始まったものなのか。

戸籍には大切な役割が3つ

現在では戸籍から住民登録の役割はなくなってしまっているので、以下のような役割が残っています。

  1. 家族関係を明らかにすること
  2. 身分関係を明らかにすること
  3. 日本人であることを明らかにすること

戸籍には上の3つの役割があります。 何か特定の事項を“明らかなものとして証明する”ことを法律的には“公証する”といい、この機能のことを「公証機能」と呼びます。戸籍謄本は正式には「戸籍全部事項証明書」と呼び、その名の通り市区町村の自治体が家族関係、身分関係、日本人である事実を「公(おおやけ)に証明してくれる証明書」ということです。

それでは戸籍の機能と役割について順番に解説していきます。

戸籍に主に記載されていること

  • 本籍(戸籍を管理している市町村)
  • 筆頭者(戸籍簿の一番最初に記載されている人)
  • 在籍する人の氏名と生年月日
  • 続柄(父母、子など)
  • 身分事項(出生日や婚姻日など)

1.家族関係を明らかにする役割

戸籍の最も代表的な役割は、家族・親族関係を記録し、証明する役割です。自分の両親が誰か、配偶者(夫・妻)が誰か、兄弟が誰か、子供が何人いるのか等、正確な家族関係が記録されている台帳の役割があります。相続手続で戸籍謄本が必要書類になる理由は、戸籍にこの家族関係を証明する機能があるからです。

2.身分関係を明らかにする役割

戸籍には家族関係だけではなく、身分関係を証明する役割もあります。日本は身分制度を採用していませんので、ここでいう「身分」とは身分の高い低いではなく、その人が「どんな人なのか」を証明してくれる身分証明書という意味です。子供が生まれたとき、出生届は最寄りの役所に提出しますが、同時に戸籍を管理する本籍地の役所にも連絡がされ、そのときに初めて子供は戸籍に国民として登録され、日本国民としての「身分」を取得することになります。

3.日本人であることを明らかにする役割

戸籍には日本の国民であることを証明する役割もあります。戸籍に国籍が書いてあるのではなく、日本の戸籍に登録されることが日本国民であることの証明になっていて、日本人でなければ日本の戸籍に入ることができません。外国人でも住民票はある一方、戸籍はないことにはこの役割があるからなのです。

戸籍が必要なとき

手続きの案内をする女性

戸籍が果たす役割についてはご理解いただけたと思います。では実際に戸籍が必要なときとはどのようなときなのでしょうか。最も代表的な7つのケースを中心に順番にご紹介します。

戸籍が必要な場面一覧

  1. 公正証書遺言を書くとき
  2. 相続手続を行うとき
  3. 保険金の請求をするとき
  4. パスポートの申請をするとき
  5. 婚姻届を出すとき
  6. 年金の請求をするとき
  7. 家系図を作るとき

公正証書遺言を書くとき

遺言書

公証役場で公正証書遺言を作成してもらうときに、戸籍謄本が必要になります。これは公証人が遺言者(遺言を残す人)の相続人が誰なのか、家族関係を確認する必要があるためです。この際に必要になる戸籍は、遺言者が載っている戸籍だけでは足りず、遺言者と推定相続人との関係がわかる範囲までの全ての戸籍(除籍謄本・改製原戸籍も含む)が必要になりますので、通常の場合は数通の戸籍を公証役場に提出することになります。

相続手続を行うとき

登記済証書

戸籍が必要になる場面で最も代表的なケースが相続手続を行うときです。相続手続の際に提出する戸籍には、①被相続人(亡くなった人)が死亡していること、②相続人が誰なのか、を明らかにする役割が求められています。法定相続分とは異なる割合で相続する場合は、被相続人と相続人との関係がわかる全ての戸籍(除籍謄本・改製原戸籍も含む)が必要になるだけではなく、遺言や遺産分割協議書も必要になります。一言に相続手続といっても様々なものがありますので、主な手続きを一覧でご紹介しておきます。

相続手続の主なもの

相続手続の種類 戸籍の提出先
相続税の申告 被相続人の住所地を所轄する税務署
不動産の相続登記 相続登記の対象となる不動産の所在地を管轄する法務局
預貯金の引出し 対象となる口座を管理する金融機関
株式の名義変更 証券会社・企業(株主名簿管理人)
自動車の名義変更 陸運局(運輸局)
携帯電話の解約 通信サービス提供会社
相続放棄 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所

このように、相続手続にも多くの種類が存在します。手続きが数カ所にわたる場合、戸籍の束(原本)を手続の都度提出するのが非効率だという問題を解決する制度として、法務局で「法定相続情報一覧図」という戸籍の束と同じ証明力がある家系図のような証明書を無料で発行してくれる、法定相続情報証明制度が平成29年5月に始まりました。とても便利な制度ですので、手続きがたくさんある方は利用を検討してみて下さい。

保険金の請求をするとき

生命保険

被保険者が亡くなったときの保険金・共済金の請求の際にも戸籍謄本の提出が求められます。保険会社や契約内容によっても求められる戸籍謄本の内容は異なりますが、保険の請求の場合も相続と同じように①被保険者(亡くなった人)が死亡していること、②被保険者と保険の受取人の関係、を明らかにする役割が求められています。

パスポートの申請をするとき

パスポート

戸籍はパスポート(旅券)の申請・更新手続きを行うときにも必要となります。パスポートの手続きの際に提出する戸籍の役割は「身分関係を明らかにする役割」と「日本人であることを明らかにする役割」から求められるものです。一方で、家族関係を明らかにする必要はないので、家族全員が記載された戸籍謄本(全部事項証明)でも、自分だけが記載された戸籍抄本「個人事項証明」でもどちらでもよく、提出する戸籍は申請前6ヶ月までのものが求められます。このように、戸籍に求められる役割に応じて必要となる証明書の種類も変わってきます。

婚姻届を出すとき

婚姻届

結婚して婚姻届を役所に提出するときにも家族関係や身分関係を証明する必要があるため、戸籍謄本や戸籍抄本が必要になります。例外として、自分の本籍地の役所に婚姻届を提出するときは戸籍謄本の提出は不要になります。戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)を発行する役所に出す場合であれば、わざわざ戸籍謄本を提出しなくても戸籍が確認できることが理由です。夫婦の本籍地が同じケースは少ないと思いますので、手続きの際には夫婦どちらか片方の戸籍謄本は提出しなければいけないことが多いと思われます。

結婚時の“戸籍の交換”という風習も

役所への届出とは別の「風習」として、結婚相手の家族から戸籍謄本や家系図の提出や交換を求められることも稀にあります。この場合は、結婚詐欺を未然に防いだり、相手の家と家族関係や身分関係を確認し合う意味合いで求められます。夫婦の家族どうしが戸籍の交換をしなくても婚姻届は夫婦だけで問題なく出すことができますが、このケースで戸籍の交換を断るのは不自然なため、求められたら“事実上”交換しなければならないでしょう。

年金の請求をするとき

年金手帳

国民年金、厚生年金、共済年金、遺族基礎年金、寡婦年金等、多種多様な年金の請求をするときも請求者の身分関係を明らかにする必要があるため、戸籍の提出が必要になります。請求する年金の種類によって必要となる戸籍の種類が異なりますので、手続きの際には提出先の機関に必要書類の確認をする必要があります。

家系図を作るとき

家系図

戸籍の本来の使い方ではないものの、現在では戸籍は家系図作りでも必須の資料です。現在につながる戸籍制度ができた明治初期から現在までの戸籍を取得することで、江戸時代末期から現在までのご先祖を明らかにし、家系図を作ることができます。江戸時代のご先祖探しをしたい場合でも、まず戸籍の取得から始める必要がありますので、いわば家系図作りの基礎資料となっています。

「家系図の作り方」のまとめ記事【総集編】家系図の作り方のまとめ。自分で作るコツとは?

その他のケース

上の掲げた以外でも、戸籍が必要になるケースはたくさんあります。

手続の種類 戸籍の提出先
養子縁組 養親か養子の本籍地または住所地の市区町村役場
離婚届 届出人の本籍地または住所地の市区町村役場
本籍の変更(転籍届) 現在の本籍地・新しい本籍地・住所地のいずれかの市区町村役場
氏名の変更 申立人の住所地の家庭裁判所
軍歴証明書 厚生労働省・都道府県自治体
国家資格の登録 各登録窓口

まとめ

こうしてみてみると、普段馴染みの少ない「戸籍」が必要なケースも意外とたくさんある!ということがご理解いただけたのではないでしょうか。市区町村の自治体が発行する戸籍証明書の公証機能によって様々な手続きが可能になっているため、現在のところ戸籍が果たしている役割も大きいといえます。

海外にも戸籍制度はある?

実はこの戸籍制度を採用している国は、現在では日本と台湾だけとなっていて、国際的にも特殊な制度になっています。新しい国民管理の方法であるマイナンバー制度が開始し、戸籍制度の必要性についても議論がされていますが、現在のところ日本社会で欠かすことのできない役割を担っているのが「戸籍」です。

「海外の戸籍制度」の解説記事海外にも戸籍制度はあるの?外国人でも家系図は作れるのか。

加えて、本来の使い方とは別に戸籍制度があることで誰でも簡単に幕末時代まで辿る家系図が作れるようになっている、ということも忘れたくないものです。家系図作りに興味がある方は、戸籍制度が存在しているうちに早めに取り組んでおくことが大切です。

「家系図作りのタイムリミット」の解説記事もう家系図が作れなくなる!?覚えておきたいタイムリミット