相続手続、パスポートの申請、婚姻届等、様々な場面で提出を求められる戸籍。戸籍が必要な場面は頻繁には訪れませんが、誰でも人生で5回位は取得をして手続きを行うことになるのが戸籍です。その時に迷ってしまうのが、手続に必要な書類として「戸籍謄本(または抄本)」と明示されている場合に、「戸籍謄本(こせきとうほん)」と「戸籍抄本(こせきしょうほん)」のどっちを提出すればいいのか?という問題です。
この記事では、これまで何千通ものお客様の戸籍を請求・取得してきた私達が、戸籍謄本と戸籍抄本の区別の方法・違い・適切な考え方について解説します。
目次
たくさんある戸籍の種類
実は戸籍には、謄本と抄本以外にも3つの種類があります。
戸籍の種類
- 戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)
- 除籍全部事項証明書(除籍謄本)
- 改製原戸籍謄本(原戸籍)
一般的に上の3種類を総称して「戸籍(謄本)」と呼んでいます。さらに戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍、にもそれぞれ謄本と抄本の区別があるため、厳密には6種類あることになります。
戸籍謄本という言葉はよく聞くかもしれませんが、戸籍抄本は必要とされる場面も限られているため、存在自体をご存知でない方も多いと思います。戸籍の種類について詳しく知りたい方は、以下の関連記事をご覧下さい。
戸籍謄本と戸籍抄本の違い
本題の「謄本」と「抄本」の違いについてですが、字の意味からしても「全部」と「一部」という意味で、とても単純でわかりやすいはずです。
字の意味の違い
- 「謄」→原本をそのまま「書き写す」という意味
- 「抄」→原本から一部を「抜き出す」という意味
戸籍謄本と戸籍抄本
- 戸籍謄本:戸籍に記載されている全て(家族全員)の事項の写し
- 戸籍抄本:戸籍に記載されている一部(家族のうち1人)の事項の写し
名称だけでなく字の意味から考えると、とてもわかりやすいと思います。これが戸籍謄本と戸籍抄本の違いです。
戸籍謄本と戸籍抄本の使い分け・役割
では実際にどのような場面で謄本と抄本が使い分けられているのかを解説します。
実はほとんどの手続で戸籍謄本が利用されている!
戸籍が必要となる手続きは様々なものがありますが、ほとんどの場合は同じ戸籍に入っている家族全員の情報が載っている「戸籍謄本」の提出が求められます。これには戸籍に求められる3つの役割が関係しています。
戸籍の3つの役割
- 家族関係を明らかにすること
- 身分関係を明らかにすること
- 日本人であることを明らかにすること
戸籍には上の3つの役割がありますが、相続手続を代表とするほとんどの手続が①家族関係を明らかにする目的で提出を求めているため戸籍謄本が必要になります。家族一人だけの情報が載っている戸籍抄本では家族関係までわからないため、戸籍謄本を提出しなければいけない取り扱いになっていて、家系図作成を目的として戸籍を取得する場合でも同様に戸籍謄本が必要です。
戸籍抄本の出番はいつ?
では家族一人だけが載っている戸籍抄本の出番はいつなのでしょうか。①家族関係を明らかにする目的ではなく、②身分関係を明らかにする目的、③日本人であることを明らかにする目的、で戸籍の提出を求める場合は戸籍抄本で足りることになります。
パスポートの申請
パスポート(旅券)の新規申請や更新の際に戸籍の提出を求められることは、ご存知の方も多いのではないでしょうか。パスポートの手続で戸籍を提出しなければいけないのは、②身分関係、③日本人であることを明らかにする目的、があるからです。外務省のホームページには必要書類として「戸籍謄本又は抄本」と載っています。必要以上の個人情報を預からないように、外務省も配慮しているといえます。
▼外務省のページ(外部)▼
日本国内及び海外でパスポートに関する申請手続きに通常必要な書類
国家資格の登録手続
国家資格にもたくさんの種類がありますが、資格試験の合格とは別に、資格の登録手続というものがあります。顔写真や履歴書等、たくさんの書類を集めなくてはいけませんが、その必要書類の中に戸籍が含まれていることがあります。この場合もパスポートと同様に、②身分関係、③日本人であること、を明らかにする目的によって求められるものですので、大抵の場合は戸籍抄本で足ります。つまり、必要書類にも一つ一つ理由があるということなのです。
とりあえず戸籍謄本を取得しておけば大丈夫!?
ここまで読み進めていただくと、「戸籍謄本は戸籍抄本を兼ねているわけだから、全部戸籍謄本を提出しておけば大丈夫なのでは?」と感じる方も多いと思います。確かに手続上は謄本で全く問題ありませんし、戸籍謄本の方が他の手続でもそのまま使える可能性も高いため、何でも使える汎用性が高い書類になります。それでも、戸籍謄本を取得する前に一つだけ考えていただきたいことがあります。
家族の個人情報保護も考えよう
そこで一度立ち止まって考えていただきたいのが、家族の個人情報のことです。何でも戸籍謄本を提出しておけば手続上は全く問題ありませんが、戸籍謄本は家族全員の全ての情報が載っているため、自分以外の家族の氏名・生年月日だけでなく、①両親・兄弟が離婚している、②子供が生まれてすぐ亡くなっている等、場合によっては知らせなくてもよい情報を提出先に全部教えてしまうことになりかねません。
そのため、個人情報の観点から目的に合わせて戸籍抄本(戸籍個人事項証明書)で足りるとされている場合は、戸籍抄本を選ぶのが実はベストなのです。戸籍抄本の方が記載内容が限定されているので提出先も書類を確認しやすいですし、何より家族の余計な個人情報を提供しなくて済む!ということが最大のメリットです。
まとめ
いかがだったでしょうか。これまで戸籍を提出する際には、細かいことを考えずに全て謄本を提出していた方も多いと思いますが、この記事を読んで戸籍の知識を学び、ケースバイケースで最適な戸籍を提出することができる、ワンランク上の知識が身についたのではないかと思います。
厳格な個人情報の管理が求められている今、情報の流出リスクを防ぐだけでなく、自分や家族の個人情報を適切に管理する知識をきちんと身につけることも大切です。実際に戸籍の取得を始める前に、自分の身を守る知識としても覚えておきましょう!