日本以外にも戸籍制度ってあるの?

生まれたら出生届を出して親の戸籍に入り、結婚したら”入籍”をして、自分が死ぬまで必ずどこかの戸籍に入っている。日本人であれば誰もが当たり前のこととしてやっていること。日本人にとって戸籍とはそういう存在です。

戸籍とは「人の出生から死亡に至るまでの親族関係を登録公証するもの」です。親子二代までが一つの戸籍に入り、結婚や亡くなることによって戸籍から除籍されます。時代を遡って戸籍を辿ってゆけば、先祖の世界がどんどん広がってゆき、自分のルーツというものが明らかになるでしょう。その一つの形として家系図を作成すれば、自身のみならず家族にとっての宝物にもなる、世界で唯一の証となります。

親族関係はもとより、日本国籍をも公証するたった一つの制度である戸籍。それほどまでに重要な制度ですが、海外諸国においてはどうなっているのでしょうか。日本のような戸籍制度を設けている国はあるのでしょうか。あるいはそれに代わる制度が存在しているのでしょうか。今回は、そんな戸籍に関する海外の事情についてご紹介していきましょう。

戸籍制度のある国

まずは現在の日本と同じような戸籍の制度を設けている国がどれだけあるのか、ということですが、意外なほど少なく「中国(中華人民共和国)」と「台湾(中華民国)」の2カ国だけとなっています。少し前までは韓国が戸籍制度を運用していました。どうやら戸籍と関わりある国は東アジアに集中しているようです。まずはそのあたりから紐解いていきましょう。

<「韓国」は2007年に撤廃>

韓国では2007年の大晦日限りで撤廃されました。戸籍制度に代わって2008年元日に家族関係の登録に関する新たな法律が施行されて、家族関係登録簿による個人単位の登録が実施されるようになりました。

<「中国」では模索しながらも存続>

中国では1958年に戸籍政策「戸口登記条例」を実施。農村から都市への人口移動を制限することを目的に「戸口簿」を設けて国民を「農業戸籍」と「非農業(都市)戸籍」に分類しました。この制度だと、他の都市に転入しても戸籍を取得できないとか医療・保険・就職・福祉・教育・住宅購入などの面で制限を受けるといったことから、深刻な社会的格差の温床になっています。

こうした規制は都市によって徐々に緩和されては来ています。また2016年9月に中国当局は、これまでの二元的管理の戸籍制度を一本化して「住民戸籍」に転換しました。それでも、どの都市や町の戸籍を持っているかで公共サービスに差異があるなど、問題は払拭できていないのが現状となっています。

一方、世帯単位の「戸口簿」を補完する身分証制度としては、すべての中国公民に終生不変の個人番号として与えられる「公民身分番号」を運用したシステムもあります。

<「台湾」は個人生活の実態に即した戸籍へ>

日本統治下では日本と同様の戸籍制度が運用されていましたが、現在では身分登録と住民登録の機能を併せて持っていて、国が一元的に管理しています。そのため全国的なオンライン管理がされており、どの地域にいても戸籍を取得することができます。

かつて敷かれていた中国本土出身者を優遇するような「外省籍」は李登輝政権時代に廃止され、出生地で戸籍登記をするようになりました。現在は個人の生活実態に即した戸籍にするべく、現実的な身分登録制度へと変わって来ています。14歳になると「国民身分証」の交付を受けて常時携帯が義務付けられ、そこに記載されている統一番号が国民識別番号で、一般的にはこの番号によるIDの方が使われる機会が多くなっています。

日本の戸籍のルーツは中国にあり

先にご紹介した通り、日本のような戸籍制度が運用されている国は東アジアに集中しています。南北分断以前の朝鮮半島では三国時代・高麗時代にまで遡る伝統的な戸籍が用いられていました。分断後の北朝鮮では、地域の党組織によって住民登録がされ厳密に管理されています。

日本も含む東アジア諸国の戸籍のルーツは、古代中国の華北社会にあるとされています。「戸」と呼ばれる小さな家族集団の単位が生まれ、政権が「戸」で民衆を把握する際に文書を作成し、それが戸籍となりました。この仕組みがその後朝鮮半島や日本に伝播していったのです。

わたしたち日本人にとっては当たり前のように存在していた戸籍ですが、活用されていたのが世界の中でも東アジアのごく一部、ということを知ると驚きを隠すことができません。続いては、西洋の国々が戸籍の代わりにどういうシステムを活用して国民を管理しているのかを見ていきましょう。

各国で採用されている「国民識別番号」とは

日本のような戸籍制度が存在しない海外諸国。それぞれの国ではどうやって国民の情報を管理して、国民はその制度を活用しているのでしょうか。その答えが多くの国で採用されている「国民識別番号」と呼ばれ国民一人一人に付与されている番号にあります。もちろん「国民識別番号」という呼び名・利用目的・機能は国によって独自のシステムがあってまちまちです。

日本においては2016年1月から利用が開始された、いわゆる「マイナンバー」がそれにあたると言っていいでしょう。しかしながらこの国の人々にはマイナンバーに加えて身分証明として利用される「健康保険被保険者番号」「パスポート番号」「運転免許証番号」、さらには「基礎年金番号」「納税者の整理番号」「住民票コード」「雇用保険被保険者番号」など色々な番号が付与されています。これはそれぞれの行政機関がそれぞれの事情で番号付与するという、いわゆる縦割り行政によって生じた、いかにもこの国らしい産物ということになるのではないでしょうか。

欧米諸国ではもっとシンプルに合理的に管理されています。日本の戸籍にあたる国民の個人情報を管理する「国民識別番号」の実例を、特徴的な4つの国でご紹介しましょう。

<アメリカ合衆国>

個人を特定する唯一の方法である番号「Social Security Number(=SSN/社会保険番号)」による制度です。家族関係が基本となる戸籍とは異なり、個人を基本とした「個籍制度」とい呼ぶのがふさわしいでしょう。SSNに登録されている事柄は氏名・国籍・出生地・生年月日・住所などです。本来の目的が社会保障を受けたり納税するための番号であることから、国民はもちろん永住者、外国人就労者、留学生に対しても発行されます。免許証の取得や、銀行口座開設などでも利用できます。

<カナダ>

アメリカとは少し異なり「Social Insurance Number(=SIN/社会保険番号)」と呼ばれています。利用分野はアメリカのSSNとほぼ同じですが、パスポートの申請もSINで行うことができます。

<韓国>

戸籍制度が撤廃された韓国で国民識別番号として運用されているのは「Resident Registration Number(=RRN/住民登録番号)」です。アメリカのSSNを参考にしていますが、決して新しい制度ではなく、1962年から付与が始まり各種公的証明書の発行に活用されています。

<スウェーデン>

住民の出生や婚姻・死亡などに関する情報は永らくは教会で記録管理されていました。その始まりは1571年とされていて、これは織田信長による「比叡山焼き討ち」の年というほど歴史が深いものです。個人番号制度が誕生したのは1947年。以来「Personal Identification Number(=PIN/住民登録番号)」として個人番号制度の成功例として各国がお手本にしています。それでもなお住民登録実務は教会が行なっており、国税庁に移管されたのは1991年になってのことでした。

PINには氏名・住所・本籍地のほか、家族の所得・資産・所有不動産の情報も含まれていますが、国民の政府に対する信頼は大変厚く、個人情報の提供は義務だという考え方が浸透しています。その背景にはスウェーデン政府の高い透明性によるところがあると言えるでしょう。他の北欧諸国であるノルウェー、フィンランド、デンマークでもPINをお手本にした住民登録番号制度で国民の個人情報を管理しています。

<その他のヨーロッパ諸国>

イタリアでは「Codice Fiscale(=納税者番号)」で健康保険証に記載されます。

オランダでは「Social Fiscaal Nummer(=SoFi-NumMer/納税者番号)」。

ベルギーでは「Numéro d’identification de la sécurité sociale(=NISS/社会保障番号)」が運用されています。

︎西ヨーロッパに多い戸籍のような帳簿での管理

The German’s Gate or Porte des Allemands in french from the 13th century in Metz, France

近代的な国民識別番号での記録管理は行いつつ、戸籍のように紙の帳簿で個人や家族の情報を管理する国は、主に西ヨーロッパに見られます。戸籍に代わるシステムを採用している代表的な国、ドイツとフランスの事情をご紹介しましょう。

<ドイツ>

「家族簿」といわれる家族単位の身分登録制度が運用されています。歴史を辿るとヴェルテンブルグ王国がナポレオン支配下にあった19世紀初頭に制度化されました。当初は居住地の教会に管理させる方法がとられましたが、1875年以降は官庁で記録管理されています。ナチスドイツ時代ではユダヤ人の排除を目的に家族の親族関係や宗教が記載されるという暗い歴史もありました。

家族簿には出生、死亡、婚姻のほかに、家族の履歴が記載されます。ここまでは日本の戸籍にとても似た様式と言えるでしょう。ところが家族簿にはさらに詳細な記載がなされ、学位・職業や任意であるものの教会・宗教団体などへの帰属の有無が記載され、濃密な個人情報が国家に登録されることになります。

家族簿が存在する背景には、ドイツという国が「家族秩序維持」を大変尊重しているということがあるのに他なりません。

<フランス>

国民全員が持っている「市民籍」があり、出生届けを出した段階で作られ、生まれた場所・日時、両親の名前が書き込まれます。日本の戸籍と違うのは、一人の人間が生涯市民籍を持って結婚・場合によっては離婚・死亡が都度書き込まれてゆくことです。

もう一つ、市民籍は作成した場所から他の場所に移すことができません。これについては不便なように感じるかもしれませんが、現在ではインターネットを通じて取り寄せることができるようになっています。また、フランスでは16歳になると身分証明書が発行され、それによってすべての人がフランス国民であることを証明することができるようになっています。

<イギリス(番外編)>

フランスやドイツのように個人・家族の身分登録制度はなく社会保障番号や住民登録で管理されています。ところが、この国ならではと思える少々ユニークな「国勢調査」というものがあるのでご紹介せずにはいられません。

10年に一度、西暦の1の位が「1」になる年に行われる「CENSUS」という名の国勢調査は、国民のみならず調査期間中にイギリスにいるすべての人が調査対象となります。その調査項目はとても詳細で、膨大な質問があります。例えば世帯については、世帯員の数から住居のタイプ・部屋数・車の台数・調査当日当該住居に滞在した人・セントラルヒーティングの熱源などに至るまで。個人については人種・民族・宗教・取得した学位・取得資格・健康状態・職業・通勤方法などなど細かすぎます。

この国勢調査の個人に関する記載は100年間封印後に公開されるということで、100年以上前の先祖の調査結果を閲覧することもできるのです。これはもし家系図を作ろうという際の重大なヒントが隠されているかもしれません。

やっぱり日本の戸籍制度は素晴らしい?

地球上の国の数からすればごくわずがではありますが、近隣のアジア諸国や欧米の主要国の戸籍制度、あるいは戸籍制度に代わる仕組みをご紹介してきました。日本では当たり前の戸籍制度が、意外なほど世界には無いということに驚かれた方も多いでしょう。

日本でも戸籍制度が整う前、江戸時代以前の家族情報は菩提寺や氏神様といった宗教に関する地域の施設で保管されていることが多いのですが、ヨーロッパ諸国でも教会が同じような役割をしているケースが目立ちます。時代とともに民族や宗教の混沌が進み、グローバル社会へ移行する近代において、教会はその役割を終え行政が国民識別番号で管理するようになる、ということは自然の流れなのでしょう。

日本においてもいつの日かマイナンバーのような番号で管理され、戸籍の役割が少しずつ薄くなっていってしまうかも知れません。それでも、国が管理する戸籍制度を活用して先祖を辿ることができる日本は、やはり素晴らしいと思います。皆さんはいかがでしょうか?