戸籍は見慣れない専門用語のオンパレード!?

「よし、家系図を作ろう!」と戸籍の収集を始めたものの、見慣れない専門用語の多さに「やっぱり無理かも・・」と挫折しかけていませんか?

戸籍には法律上の身分関係が記録されているため、一般的な言葉の意味とは切り離して、法律用語として理解しなければなりません。さらに、戦前の家制度を基本とする旧民法が、戦後に個人の人権が尊重される親子単位の現行民法に改正されていることも用語が理解しづらい原因の一つになっています。そこで本記事では、戸籍に登場する専門用語を詳しく解説します。

戸籍の種類(謄本/抄本・除籍/原戸籍)

家系図作りで最初にぶつかる壁が、「戸籍の種類」です。役所の窓口で戸惑わないよう、まずは基本の3種類を理解しておきましょう。

1. 戸籍謄本(とうほん)と抄本(しょうほん)

戸籍謄本(全部事項証明書): その戸籍に入っている「全員」の情報が載っているもの。家系図を作る際は、家族関係全体を把握するため、原則としてこちらを取得します。
戸籍抄本(個人事項証明書): 特定の一人(または数人)だけを抜き出したもの。パスポート申請などには使えますが、家系図作りには情報不足のため使えません。
謄本・抄本というのは一般的な呼び方で、窓口でも伝わります。正式には現在は戸籍はコンピュータ化されているので、その戸籍に書かれている”全ての事項”を証明した「全部事項証明書」と、”個人の事項だけ”を証明した「個人事項証明書」という名称になっています。

2. 除籍謄本(じょせきとうほん)

家系図作りで最も頻繁に目にするのが、この「除籍」です。戸籍の中にいる人は、結婚したり、亡くなったり、他の市町村へ転籍したりすると、その戸籍から名前が抜かれます(これを「除籍される」と言います)。 そして、その戸籍に記載されていた「全員」がいなくなって閉鎖された戸籍を「除籍(除籍謄本)」と呼びます。古い戸籍を調べる家系図作りにとっては重要な資料となります。

3. 改製原戸籍(かいせいげんこせき)

通称「はらこせき」とも呼ばれる、家系図作りの重要資料です。法律の改正やコンピュータ化によって、戸籍の様式が新しく作り変えられることがあります。その「作り変えられる前の、元(原)の戸籍」のことです。 新しい戸籍には、古い情報はすべて引き継がれるわけではありません(例:離婚歴や、古い養子縁組の情報などが省略されることがあります)。
この改製原戸籍も除籍謄本と合わせて家系図作りの重要資料となります。家系図作りは「除籍謄本と改製原戸籍を集める作業」と言っても過言ではありません

附票(ふひょう)

これは戸籍そのものではありませんが、セットで管理されている補助書類です。戸籍には「本籍地」しか載っていませんが、附票には「その戸籍にいる間の『住所の履歴』」が記載されています。附票はかつて保存期間が5年だったこともあり、謄本に比べて保存状況がよくありませんが、本籍地に加えて住所も調べたい場合に貴重な情報になります。

戸籍の基本情報(本籍地/筆頭者/戸主)

次に、戸籍の「本籍地」や「戸主」、「筆頭者」などの戸籍の基本情報に関する用語です。まずは基本的な用語から理解していきましょう。

1. 本籍地(ほんせきち)

現在でこそ「本籍地」と「住所」は別物とされていますが、人々の移動が活発ではない明治時代までは本籍地と住所はほぼ同義でした。その後に法改正により現在の「住民登録制度」が確立され「本籍地」と「住所」は完全な別物となった経緯があります。つまり、明治時代の戸籍に記載されている「本籍」は、実際にご先祖が生活していた場所と推定できます

2. 筆頭者(ひっとうしゃ)

現在(戦後)の戸籍制度における「見出し」となる人物です。 戸籍の一番最初に名前が書かれている人で、戸籍を探す際の「インデックス(索引)」の役割を果たします。 多くの場合、夫が筆頭者になりますが、妻の氏(名字)を選んで結婚した場合は妻が筆頭者になります。亡くなっても筆頭者は変わりません。

3. 戸主(こしゅ)

戦前の旧民法下で使用されていた用語であり、家制度における「一家の長(家長)」を指します。現在の「筆頭者」と表向きは似ていますが、実際の権限がある点で大きく異なります。

  • 筆頭者: 名簿の代表者(インデックス)
  • 戸主: 「一家の長(家長)」

昔の「家」制度において、戸主は家族の結婚や居住地に対して強い権限と責任を持っていました。戦前の古い戸籍(明治・大正・昭和初期)は、この「戸主」を中心に記録が作られています。家系図を辿るときは、この戸主を辿っていくことで本家筋に辿り着くことができます。

4. 本家(ほんけ)と分家(ぶんけ)

家族(多くの場合次男や三男)が新しい戸籍を作り家を分かつことを「分家」と言います。「〇〇県〇〇番地の〇〇(人名)方より分家」等と戸籍に表記されます。分家する前の家が「本家」と呼び、そのさらに大本の本家を「総本家」と呼ぶことがあります。「分家」は戸籍に載りますが、「本家」「総本家」は戸籍に事項として表記されることはありません。そのため、戸籍上は「分家していない家が本家」と推測することになります

戸籍の続柄と関係性

戸籍の種類と戸主がわかったら、次は「家族一人ひとりの関係」を見ていきます。しかし、昔の戸籍には、現代では使われない用語や、一見すると意味が取り違えやすい言葉が潜んでいます。ここでしっかり読み方と意味をマスターしましょう。

基本的な続柄(現行法・旧法共通)

現代(戦後)の戸籍は夫婦単位で作られるため、子は常に「父・母から見た子(長男・長女)」として記載されますが、戦前の戸籍は「家(3世代同居など)」単位で作られており、続柄は常に「戸主から見た関係」で書かれています。古い戸籍を読む上で重要な知識となりますので、必ずおさえておきましょう。

続柄表記
解説
夫/妻 婚姻関係にある配偶者を示します。戸籍は原則として一組の夫婦と氏を同じくする子ごとに編製されます。
父/母 実父母を示します。戸籍には戸籍内の各人について実父母の氏名と実父母との続柄が記載されます。
長男/長女 父母から見て一番最初に出生した嫡出子(法律上の婚姻関係にある夫婦の子)を示します。
二男/二女 父母から見て二番目に出生した嫡出子を示します。三男、三女以降も同様に記載されます。
養父/養母 養子縁組によって親となった者を指します。戸籍には養親の氏名および養親との続柄が記載されます。
養子/養女 養子縁組によって子となった者を指します。

旧法(戦前)特有の続柄

戦前の戸籍と戦後の戸籍の違い図解

旧法戸籍(明治31年式、大正4年式など)は「家」を単位として編製され、戸主(こしゅ)を中心とした関係性を示す特殊な続柄が多く用いられていました。戸籍の中に記載されている全ての人物の続柄が「戸主との関係」で書かれています

続柄表記
解説
戸主 旧法時代の戸籍の筆頭者である一家の長、家長を示します。戸主には家族に対する強大な権限(戸主権)がありました。
戸主から見た家族(息子や孫など)の妻を指します。戸主の配偶者は通常「妻」と記載され表記で区別されました。
姉/弟/妹 戸主の兄弟姉妹を指します。旧法戸籍では、戸主から見て直系以外の傍系親族も戸籍に記載されました。
祖父/祖母 戸主の父母の親(直系尊属)を指します。戸籍謄本等の交付請求ができる範囲(直系尊属)の例です。
戸主の子の子(直系卑属)を指します。旧法では戸主から見た続柄として記載されました。現行の親子単位の戸籍には孫は入ることはできません。
叔父/叔母 戸主の父母の兄弟姉妹(叔父・叔母)を指します。
甥/姪 戸主の兄弟姉妹の子(甥・姪)を指します。
従弟/従妹 戸主の叔父・叔母の子(いわゆる従兄弟)を指します。
入夫 女戸主の家に入り、その家の戸主となった夫を示します。
男/女 法律上の婚姻関係がない男女の間に生まれた子(庶子・私生子)の続柄は「長男」や「二女」のようには表記されず、「男」「女」と表記されるケースが多い。
継親/継父母 夫婦の一方が、その配偶者の前婚または婚姻前の連れ子と生じた親族関係(継父と継子、継母と継子など)を指します。
後妻 夫婦の一方が死亡した後、その配偶者(夫)が後妻を迎えた場合に「後妻」と表記される場合があります。当時の後妻は単なる配偶者ではなく、継親子関係を通じて相続などに影響を与える存在でした。
縁女 戸主が幼い女子を将来その家で結婚させることを目的に、あらかじめその戸籍に入籍させた女子が「縁女」と表記される場合があります。現代でいう「いいなづけ」のことです。

現行の戦後の戸籍は親子単位で作られているためシンプルですが、戦前の家制度下の戸籍になると特殊な続柄が増えて複雑になっていきます。戸籍の続柄を正確に理解することではじめて、正確な家系図を書けるようになりますので、知識としておさえておくようにしましょう。

家族の変動に関する用語

ここからは、家族の「動き」に関する用語です。家制度下の日本では、「家」を絶やさずに次の世代へつなぐことが何よりも重要視されていました。そのため、現代の感覚では少し驚くような結婚や相続の形が戸籍の表記にも残されています。

1.家督相続(かとくそうぞく)

「相続」と表記されていますが、現代の「遺産相続」とは異なります。旧民法下では、戸主が亡くなったり隠居したりすると、次の戸主(主に長男)が「家の財産」と「戸主権」、すなわち「家督」を単独で相続しました。これを「家督相続」と言います。兄弟平等を原則とする現代の感覚とはかけ離れた相続の形です。不平等である一方で、予め相続分が決まっているため家族間での争いが起こりづらいというメリットがありました。

2.隠居(いんきょ)

「隠居」と聞くと現代では「老後のんびり過ごす」というイメージですが、戦前の戸籍では「生前に家督を譲ること」を指す法律用語になります。「60歳になった」「病気になった」などの理由で、生きていながら次の代へ家督を譲り、自分は責任から離れることを指します。戸籍には「隠居」と明確に記されます。

3.婿養子縁組(むこようしえんぐみ)

いわゆる「婿入り」のことですが、手続きとしては2段階行われます。

  1. 妻の親と「養子縁組」をして、法的な親子(息子)になる。
  2. その上で、娘(妻)と「婚姻」する。

つまり、「家を継ぐための『息子』として迎え入れられた」という意味合いが強い形です。

4.入夫婚姻(にゅうふこんいん)

こちらも男性が女性の家(戸籍)に入る形ですが、上の婿養子とは少し事情が異なります。これは「女性がすでに『女戸主』である家に、男性が夫として入る結婚」のことです。明治・大正期には、夫を亡くしたなどの理由で女性が一時的に戸主になっているケースがありました。そこへ結婚して入る場合、養子縁組ではなく「入夫婚姻」という言葉が使われます。

5.その他の用語

用語
解説
復籍 婚姻や養子縁組で他家に入った者が、離婚や離縁により婚姻・縁組前の実家の戸籍に戻り、従前の身分を回復すること。除籍されている場合は新戸籍が編製されました。
廃家 旧法下の戸主が他家に入る目的で、自分の家を消滅させる身分上の法律行為。原則として一家創立者のみが自由に行えました。
絶家 旧法下の家制度において、戸主を失った家に家督相続人がいないために家が自然に消滅すること。戸主の意思による廃家とは異なります。
一家創立 旧法下で法律の規定に基づいて当然に一家(新戸籍)を設立すること。非嫡出子が父母の家に入れない場合や、復籍すべき家がない場合に生じました。
廃絶家再興 旧法下で廃家または絶家により消滅した家を再興すること。家名(氏)を称することが目的であり、戸籍に届出が必要でした。

戸籍の手続に関する用語(消除・錯誤)

最後に、戸籍の身分事項欄(備考欄のような場所)によく出てくる、事務的な用語をご紹介します。

1. 消除(しょうじょ)

戸籍の中にいる人が、死亡や婚姻、転籍などでその戸籍から抜けるとき、名前や身分事項に大きな「×印」が付けられたり、「除籍(消除)」と書かれたりします。

「×(バツ)」が付くことから、離婚を「バツ」と呼ぶ語源になりましたが、本来は「その戸籍から抜けた」という単なる事務処理の目印です。

2. 錯誤(さくご)

これは「役所の書き間違い」を指します。「昭和〇年〇月〇日生とあるは錯誤につき訂正」といった、間違いを修正した戸籍の記載をよく見かけます。昔の戸籍はすべて手書きで、申請も口頭で行われることが多かったため、名前の漢字間違いや生年月日のズレは日常茶飯事でした。

3.その他

用語
解説
転籍 「本籍地」を別の場所へ移すこと。明治時代の戸籍に記載されている「転籍」は住所変更とほぼ同義となります。本籍地変更とも。
届出 出生、婚姻、死亡など、身分事項の変動を市町村長に知らせ、戸籍に記載させるための行為、またはその書類のこと。
申請 戸籍の訂正や、戸籍謄抄本、身分証明書などの交付を役場に求めるための行為。
嘱託 裁判所や官公庁が、職務上知り得た戸籍の変動事項を市町村長に通知し、記載を依頼すること。
編製 婚姻や転籍、法改正などにより、新しい戸籍を新たに作成すること。
除籍 婚姻や死亡などにより戸籍から人が抜けること、または全員が抜けて効力を失い除籍簿に綴られた戸籍自体を指す。
改製 法改正や様式変更に伴い、古い戸籍(改製原戸籍)の内容を新しい様式に書き換えて作成し直すこと。
復籍 婚姻や養子縁組で他家に入った者が、離婚や離縁などによって婚姻前の戸籍に戻ること。
離婚 法律上の婚姻関係にある夫婦が、協議または裁判によってその関係を将来に向かって解消すること。
離縁 養子縁組によって生じた養親子関係を、当事者間の協議または裁判によって解消すること。
就籍 日本国民であるにもかかわらず本籍がない者が、家庭裁判所の許可を得て戸籍を設けること。
再製 災害などによって戸籍簿が滅失した、または滅失のおそれがある場合に、その戸籍を回復させ作り直すこと。
分籍 成年に達した者が、戸籍の筆頭者やその配偶者でない場合に、現在の戸籍から抜けて新たな戸籍を作ること。いわゆる分家のことを指します。

まとめ:言葉から歴史を感じよう

いかがでしたでしょうか。

最初は漠然としたイメージだった「戸主」「家督相続」「除籍」といった言葉も、正確に理解することで、ご先祖が命をつないできた「物語」を鮮明に捉えることができます。しかし、実際の古い戸籍(特に明治・大正期)は、用語が難しいだけでなく、達筆すぎる字で書かれていて読めないことも多々あります。そんなときは、こちらの記事をご覧ください。

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