私達のお客様の中には、自分で家系図作りをすることを最初から諦めていて、
「家系図は行政書士とか司法書士とかじゃないと調べられないんですよね?」 という方もいらっしゃいます。

それも無理はありません。家系図作成業者は、実際に行政書士事務所がほとんどなのです。印刷会社・表装会社が作る家系図も、戸籍の調査は行政書士が下請けとして行っている場合がほとんどです。そこで、

1.行政書士じゃないと家系図は作っちゃダメなのか?
2.行政書士はどのようにして家系図を調べているのか?
3.なぜ家系図=行政書士なのか?

この3つのテーマについて、現役の司法書士・行政書士が運営する家系図作成会社である私達が解説します。少し難しい法律の話になりますので、苦手な方は流して読んでみて下さい。

なぜ行政書士が家系図作成を手がけるようになったのか

士業バッジ

そもそもなぜ行政書士が家系図を作ることになったのでしょうか?まず理由の一つとして、家系図を作成するサービスを発明した人が行政書士さんだったから、ということが挙げられます。それに続くように様々な行政書士が追随することで、一定の市場が生まれて家系図の作成=行政書士というイメージの基盤ができたといえます。

行政書士等の士業と聞くと、有名な大学を出て、難しい試験を突破して、頭が良くて、キレイなスーツを着て、たくさんお金を稼いでいるイメージがあるかもしれません。確かに行政書士の中でも、経営センス・営業力がある方は、独立・起業して高収入を得ている方も多くいることでしょう。

しかし現実としてはそこまで甘いものではなく、厳しい競争にさらされて、行政書士業務だけで満足な売上を立てられていない行政書士さんも多く存在しているのが実際なのです。そんな中、「家系図の作成」という新しいマーケット・業務が誕生したことで、我こぞって参入する行政書士が発生しました。行政書士事務所の経営も大変なのです。

独占業務であるとの主張

次に行政書士は、家系図作成は高度な個人情報である戸籍を扱う業務であり、かつ行政書士法に定める「事実証明に関する書類」の作成にあたるとして、家系図作成は行政書士の“独占業務”だと主張するようになったのです。

<行政書士法 第1条の2 第1項>
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。

独占業務ということは、行政書士じゃないと家系図作成はできない!一般企業はできない、無資格者ではできない!ということを意味します。行政書士としても、自分たちのマーケットは守りたい、ライバル企業は少ないほうがいいし、なるべく締め出したいということで、そのような主張をするようになったものと思われます。士業の業界では、このような自分たちの業務の領域を確保しようとする論争(業際問題ともいわれる)は日常茶飯事なのです。

<独占業務の2つのメリット>

  1. 家系図作成業務の市場を行政書士で独占できる
    →行政書士じゃないと家系図作成業務ができないことになるから
  2. 行政書士業務として「職務上請求書」を利用することができる
    →行政書士業務の遂行に必要ということになるから職務上請求書が使える

家系図の作成が行政書士の独占業務と認められることには、行政書士にとってこの2つのメリットがありました。

士業の特権?職務上請求書とは

職務上請求書

一般の方で職務上請求書という言葉を聞いたことがある方は少ないでしょう。お仕事で士業と関連する場合は、ご存知の方もいると思います。職務上請求書は、つまり士業(弁護士・税理士・司法書士・行政書士等)の職務で必要な時に、行政から発行される各種証明書(戸籍・住民票の写し等)を請求できる用紙のことなのです。職務上請求書は所属する行政書士会などから所定の手続を経て冊子で発行してもらえるものです(有料)。

この職務上請求書(通称:職務上)を使えば、極端な例だと落ちているハガキを拾い住所と名前を把握できれば、その宛名の方の住民票、高度の個人情報である戸籍も全て集められることができるような強力な請求書なのです。もちろんそんな使い方をしては絶対にいけないことになっていますが、理論上はできます。“依頼者からの委任(状)がなくても”取得請求ができるというのが最大のポイントです

なぜそんなことが許されているのでしょうか? 専門士業の業務をスムーズにするため、といえば聞こえはいいですが、実際は士業の職業上の「特権」というべきでしょう。そのため、使い方については非常に厳しく研修を受けます。

またこの職務上請求書は、誤った使い方をして懲戒(行政書士会からの注意や業務停止処分等)を受けてしまう事例も多いものなのです。「職務上請求 懲戒」と検索すれば、非常にたくさんの事例がヒットします。強力な特権な分、それだけ使用に配慮しなければいけないものだといえます。

家系図の作成が行政書士の業務であれば、職務上請求書を使って依頼者の戸籍を集めることができて、戸籍法の範囲を超えて際限なく家系の調査を行うことができ、依頼者から委任状を書いてもらうことなく家系図が作れるため、業務がスムーズなのです。当時は職務上請求書を使って家系図の作成をする行政書士がたくさんいたことでしょう。

そんな中、事件が起こりました。

行政書士法違反事件

行政書士法違反事件

その士業の特権であり、業務の遂行を助けてくれる大事な職務上請求書を、家系図作成を行う無資格者(個人)に売り渡してしまった行政書士さんがいたのです。お金に目がくらんで売ってしまったのか、細かい真相は藪の中ですが、その無資格の業者は、売り渡した職務上請求書を使い戸籍の調査を行い、家系図作成業務を行っていたのです。この事件は職務上請求書を用いて戸籍の不正取得が行われていて、それはもちろんよくないことです。でもメインの争点は行政書士法違反の点でした。行政書士の資格がない人が家系図の作成をすることは違法なのか?という部分です。行政書士業界にとって重要なことは、

【争点】観賞用の家系図は行政書士法に定める「事実証明に関する書類」に該当するのか?
※観賞用の家系図の作成は行政書士の業務といえるのか?という意味
この部分が非常に重要なポイントでした。

観賞用の家系図が「事実証明に関する書類」ということになれば、
・家系図の作成は行政書士じゃないとできない!
・行政書士は職務上請求書を使って戸籍の請求を行うことができる!
ということになります。そういったことが間接的に争われた事件だったのです。

最高裁判所が出した結論

(最高裁判所平成22年12月20日第一小法廷判決・刑集第64巻8号1291頁)
裁判所の判断は、結果として以下のようなものでした。

「家系図作成について,行政書士の資格を有しない者が行うと国民生活や親族関係に混乱を生ずる危険があるという判断は大仰にすぎ,これを行政書士職の独占業務であるとすることは相当でないというべきである。」

つまり、観賞用家系図の作成は、行政書士法に定める業務ではない!と判断したということです。これで行政書士法違反に問われていた被告人(無資格者)は晴れて無罪となりました。行政書士業界としては残念な結果になってしまいましたが、街の法律家である行政書士といえども、最高裁判所の判断に従わないわけにはいきません。

この判決以降、行政書士は職務上請求書を使って家系図を作るための戸籍請求ができなくなってしまい、お客様にきちんと委任状を書いてもらい、委任のもとで戸籍の請求を行わなければいけなくなりました。行政書士は特権を使わず、一般の方と同じ方法で家系図作成を行わなければならなくなったのです。

さらに、家系図の作成は行政書士の独占業務でもないということなので、行政書士ではない企業等が家系図の作成を行っても大丈夫!ということが明確になりました

▼関連記事▼(外部サイト)
【日経電子版】無資格で家系図、逆転無罪 最高裁「証明書類でない」(平成22年12月20日付)

行政書士の家系図作成は違法なの?

この判例を読むと、1つ勘違いしがちな点があります。

それは判例が「行政書士が家系図作成を行うことは違法!」と判示したと読んでしまうことです。判例は「家系図の作成は行政書士の固有の業務ではない」とは判断しましたが、「行政書士が家系図の作成をやってはいけない」とは一言も言っていません行政書士にも憲法に定められた職業選択の自由があります。つまり、行政書士が家系図の作成を行うことは違法ではないということなのです

やる気がなくなった行政書士

敗北したボクサー

上のとおり、家系図の作成は行政書士の業務ではないということは確定しました。でも禁止されたわけではなく、行政書士でも家系図の作成はやっていい!ということになっています。でも中には「行政書士の業務じゃないんだったら家系図作成はやりたくないし、やるべきじゃない!」「職務上請求書を使わずに戸籍の請求をするなんて非効率過ぎる!」と考える行政書士の先生もたくさんいました。

つまりのところ、やる気がなくなってしまったのです。行政書士も、法律家としてのプライドがあり、多くの行政書士が、本来の行政書士の独占業務をやるべきだ!と考えたのでしょう。それにより、家系図の作成を行う行政書士は徐々に減っていくことになりました。

なぜ今でも行政書士が家系図作成をやっているの?

でも家系図の作成を専門とする行政書士事務所はまだたくさん残っていますし、新しく始める行政書士さんもいます。なぜ行政書士じゃなくてもできる業務を、わざわざ行政書士事務所の看板を立てて行っているのでしょうか?

それはつまり、国家資格者行政書士としての「信用」や「技術」をアピールポイントとして活用してビジネスを行っているということなのです。家系図の作成は、誰にでもできるといっても、高度の個人情報である戸籍を扱います。

行政書士には守秘義務があるので、個人情報を簡単に漏らしたりしません、適切に扱うことができます、とアピールするため。さらに戸籍の読取りには専門的な技術が必要ですから、その技術についても行政書士の資格に裏付けられた技術としてアピールするために、行政書士事務所の看板を活用しているのです。

行政書士の「信用」と「技術」はどう判断したらいい?

考える女の子

では次に、その行政書士の信用と技術をどう判断したらいいのでしょうか?

行政書士の守秘義務について

個人情報を扱う上での「守秘義務」については、確かに行政書士法に定められています。しかし、義務が課せられているということは、ウラを返せば違反したら罰せられるということだけであって、実際にきちんとした管理がされているということとは別問題です。行政書士試験では個人情報保護法に関する問題も出題されますが、それはあくまで法律の問題であり、現実的な情報管理体制についての設問はありません。実際の行政書士会の研修をとっても、個人情報の研修を受けなくても行政書士になることができる仕組みになっていて、とても体制として十分とはいえないのです。

現実として、行政書士は守秘義務が課せられているといっても、個人情報の管理体制について設備投資をしてないケースも多くあります。全体的に組織が小規模であることが多く、直接お金を生まない個人情報の管理分野に投資する人的・資本的余力がないことが理由として挙げられます。

実は行政書士よりも、大企業の方が明らかに個人情報の管理体制は強固なのです。大企業は、専用のソフトウェアを導入し、従業員のパソコンの管理を1台ごとにきちんと行っていますし、ウイルス対策や社員が閲覧しているサイトを細かに管理している企業も多いです。

プライバシーマークやISMS等の個人情報の管理体制について認証を受けている企業はより一層厳しい管理をしていることでしょう。さらに社員に個人情報に関する研修を必ず受講させているものです。それが認証の取得・維持の要件になっているからです。

企業としても個人情報の漏洩を起こし社会的信用が傷つけば、経営にダメージを受けることになり、損賠賠償をしなければならなくなる場合も出てきます。そういった意味では企業も当然「守秘義務」は負っているのです。

一般論として、大企業の方が個人情報の管理体制はしっかりしているとはいえます。しかし、行政書士事務所でもきちんとした管理体制をとっている事務所もあるはずです。そういった意味では、行政書士の「守秘義務」はうわべだけではなく、きちんと中身があるものかをみて判断すべきことであるといえるでしょう

行政書士の技術・スキルについて

一般的に知られていることではありませんが、行政書士の業務範囲は非常に多岐にわたります。そのため、行政書士業務を全て行う行政書士は皆無で、行おうとする人もいません。つまり、行政書士はそれぞれ専門分野を定めて業務を行っているのです。

その点ではお医者さんと同じといえます。同じ資格の中でも、外科、内科、小児科、整形外科、というように、行政書士も、建築業の許認可、古物商の許認可、運送業の許認可、相続手続といった具合で、誰でもいくつかの専門分野を持っていて、色々な専門性を持った行政書士がいるのです。

その中でも相続手続を得意にしている行政書士であれば、戸籍の読み取りは得意でしょうから、簡単な家系図は作れることでしょう。しかし、家系図作成は非常に専門的、かつ奥深いものですから、相続の戸籍収集ができれば家系図の戸籍収集ができるか?というと、そんなことはありません。さらに家系図だけならまだしも、系譜のような戸籍の詳細な読込が必要なものを作ることは困難であることが多いのです。

古い戸籍になると、専門性が高まり古文書解読のような作業になってくるため、そうなると行政書士よりも古文書の専門家や役場の戸籍の担当者の方がよっぽど技術が上、ということもあり得ます。戸籍が作られた時代より昔の調査についても行政書士の専門外になり、歴史家や郷土史家、リサーチャーには及ばないケースが多いといえます。

つまり、行政書士だったら家系図が作れる、なんてことは決してない!ということなのです。そのため、行政書士という看板だけで判断するのではなく、家系図作成の専門家の行政書士であるかをきちんとみるべきといえます。ホームページだけで判断するのではなく、一度事務所まで相談しに行ってみると多くのことがわかるはずです。

司法書士も家系図の作成をやる?

不動産登記権利情報

司法書士については、家系図作成を専門にしている事務所は存在しません。しかし本業のついでに家系図の作成も行う司法書士は存在します。司法書士と行政書士は名前は似てますが、メインの業務が違うのです。司法書士と行政書士の資格を両方取得して業務を行っている事務所も多いですが、この場合は司法書士の業務をメインに営業しているケースが多いです。

・行政書士は「官公署に提出する書類」の作成とその代理(許認可)
・司法書士は「法務局に提出する書類」の作成とその代理(登記)
です。

司法書士の場合は「登記」の専門家ですので、法務局に相続登記を申請する際に戸籍を扱い、相続関係説明図という簡単な家系図のような書類を作成します。特徴として、司法書士は銀行等の金融機関からの仕事が多いため、ミスは絶対に許されません。そのため、正確に戸籍を読み、確実に登記申請をしなければならないという緊張感の中で仕事をしています。

そういった意味では仕事の細かさ、正確性については行政書士よりも司法書士の方が一般的に優れているケースが多いといえるかもしれません。試験の難易度も司法書士の方が高く、性格も生真面目で固い人が多い印象があります。

司法書士は行政書士と異なり、業務の範囲もある程度絞られているため、司法書士で戸籍を読めない場合、仕事では全く通用しません。そのため、ほぼ全ての司法書士が戸籍の読取り技術は習得していると考えてよいと思います。しかし司法書士であれば誰でも家系図の作成ができるか?というと、やはり前述した行政書士と同様の理由で、専門性の有無がポイントになるでしょう。

まとめ

行政書士と家系図作成について、理解は深まりましたでしょうか。
行政書士が行う家系図作成も色々な歴史・出来事を経て、今があるということをご理解いただけたと思います。

本記事のタイトルである「家系図作成は行政書士じゃないとできないの?」という問いの答えは、「行政書士じゃなくても家系図の作成は(法律上、建前上は)できる!」ということです。

しかし実際は、その専門性の高さから、行政書士が行う場合が多い状況なのです。資格によるスキルや国家資格が持つ信用の裏付けがない状態で、戸籍のような個人情報を扱う仕事を始めたとしても、お客様を安心・納得させることは難しい、という理由も大きいでしょう。

最近では行政書士や司法書士が設立した会社が家系図作成を行ういわば“ハイブリッド型”の家系図作成会社も存在しています。代表者が司法書士兼行政書士である弊社(家樹株式会社)もこの分類に当てはまります。

いずれにしても、「行政書士」や「司法書士」の看板だけではなく、きちんと中身を見定めることが大切だといえます!家系図作成業者の見分け方・分類等について詳しく知りたい方は、関連記事もご覧ください。

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