最近は、家紋のデザインが入った様々なグッズが販売されていたり、日本的な家紋の美しさ・デザイン性が国内外で評価されてきています。航空会社のJALのロゴマークや、高級ブランドのルイ・ヴィトンのモノグラムのデザインが日本の家紋をモチーフにしていることは有名な逸話です。世界的にみても家ごとにロゴマークを持っている国は日本だけであり、日本人として家の紋章である家紋を持っていることは世界に誇れる文化ともいえます。
家系図を作るときも、どこかに家紋をあしらうのが一般的となっていて、例に漏れず私たちが家系図を作る際にもお客様の家紋を家系図に入れて制作します。そのため、家系図を作る上でも、自分の家紋を把握しておく必要があり、自分のルーツを辿る上でも家紋は重要な情報の一つになります。しかし近頃では、自分の家紋をちゃんと知っている人は減ってきていて、聞かれてもすぐにわからないケースも多いものです。
戦前は家制度と呼ばれる「家」を単位とした法制度でしたので、家のロゴマークである家紋を意識する機会や、家紋をあしらった物も多かった時代でした。しかし最近では「家」を意識する機会が減り、身の回りに自分の家紋が入った物自体が少なくなってしまっていることも、家紋が縁遠くなっている原因といえます。中には自分の家紋を見たことがなくわからないばかりか、探し方も全くわからない場合もあるかもしれません。これでは家族で家紋を引き継いでいくことができなくなってしまいます。
この記事では、そんな自分の家紋がわからない方に向けて、自分の家紋の調べ方を詳しく解説します。
目次
家紋に関する事前知識
家紋と名字は一致する!?
一般的に「家」を表すものとして代表的なものは「名字」です。そのことから、自分の家紋がわからない場合、今の時代ならインターネットや辞典等を用いて名字から家紋を調べる方法も考えられますが、この方法は、自分の家紋を知る上で一つの参考にはなるものの、それだけの情報で自分の家紋を決定してしまうのは早計です。
なぜなら、その名字自体にも多くの由来があるためです。名字の8割は地名を由来としており、同じ名字でも発祥の場所が異なるものが多く存在します。よほど珍しい名字でもない限り、同じ名字だったというだけで元々同じ一族(家)だったと考える根拠は薄く、自分の名字から自然と一つの家紋が決まるという考え方は誤りです。
その代わり、同じ名字であって、かつ江戸・明治時代の住所(最古の本籍地)が同じ地域だった、という場合は同じ一族(家紋)だった可能性がある重要な情報と考えられます。同じ名字で同じ家紋を持つ一族がいることは、ルーツ探しでも役立つ情報なので、家系図作りを検討している方はメモとして残しておきましょう。
途中で家紋が変わることもある!?
江戸時代、家紋は苗字に比べてとても自由なものでした。苗字を名乗ることは武士の特権とされており、庶民は公に苗字を公称することができなかった一方、家紋については徳川家の三つ葉葵や大名と同じ家紋を使用することが禁じられた程度で、一部の家紋を除いて庶民も自由に定めることができました。
家紋は登録制ではありませんでしたので、家紋を変えることも自由でした。家紋は「家」のアイデンティティを示すものだったことから、本家から分家するときに微妙に家紋の絵柄を変化させたり、全く違う家紋にすることさえもありました。
さらに室町時代の頃から武士の間では、功績のあった家臣に家紋を授ける「賜与(しよ)」という、いわば家紋を譲渡することも行われていて、途中で自分の家の家紋が変わったり、増えたりすることもあったのです。
家紋は一家に一つとは限らない!
昔から、自分の苗字や自分の家は一つでしたが、家紋は譲ったり、賜ったり、新しく定めたりと、比較的自由なものだったため、家に複数の家紋が伝わっていることも珍しくありません。有名な戦国武将である伊達政宗は「定紋」「替紋」等、合計8つ(それ以上という説もアリ)の家紋を使い分けたといわれています。さらに近畿地方の一部の家では「女紋」という女系に継がせる家紋の風習も存在します。つまり、家紋は1つの家に1つとは限らないということなのです。
家紋はどこにも登録されていない!
これまでの歴史上、日本で家紋を登録する制度は存在しませんでした。戦国時代の武将も、敵味方や家を識別するものとして家紋をある程度管理はしていましたが、庶民まで広く家ごとに家紋を登録させるようなことは行いませんでした。江戸時代は「葵紋」の使用が禁じられ、明治時代になると天皇家と同じ紋である「十六八重菊」の使用が禁じられることはあっても、名字と同じように登録させることはありませんでした。
このように、家紋の使用は自由だった一方、国や自治体で家紋をどこかに登録する制度も存在しないため、自分の代で家紋がわからない場合、子孫に家紋が一切引き継がれず、事実上消滅してしまうことにもなりかねません。自分の家がなぜその家紋を使っているのかを突き詰めると、必ず理由があるものです。名字は国の制度の中で自然と引き継がれるものですが、家紋も家族の歴史の一部として引き継いでいきたいものです。そのためにも、自分の家紋がわからない場合は、まず調べて把握しておく必要があります。
自分の家紋の調べ方
自分の家紋を調べる方法は、実は様々です。すごく手軽な方法から大規模で手間と時間がかかる方法まであり、手軽なものから順番に紹介していきます。最初は順番に手軽な方法から試してみるようにして下さい。
家族・親戚に聞いてみる
誰でもパっと思いつく、最も手軽な方法が両親や親戚に家紋を尋ねる方法です。ご両親や親戚がまだご健在の場合は、この方法で50%以上の確率で自分の家紋が判明するともいえますので、まず試してみるべき方法です。しかしこの方法だと家紋の正確な紋様までわからなかったり、既にご両親が他界している場合に聞くことができないこともあります。「人」から聞くことが難しい場合は、「もの」をあたってみるしかありません。
お墓を調べる
家族や親戚に聞いても記憶が曖昧だったり、両親が他界している場合は、次にお墓を確認してみるべきです。お墓が近くにある場合は、お墓参りのついでに家紋を確認してみることをオススメします。「家」を意識した考え方が時代とともに薄れていく中で、現代では「先祖代々のお墓」が「家」を象徴するものとして残っています。お墓が遠方の場合や既に墓じまいをしてしまっている時は、昔の記念写真の中にお墓が写り込んでいないかも確認しておくべきでしょう。
写真・画像にも残しておくこと
実際にお墓を見に行き家紋が確認できた場合は、必ず写真も撮っておきます。家紋は実は微妙な紋様の違いがあるので、画像で残しておくのが一番確実な方法なのです。自分の家紋がわかったら、その家紋の名前も調べておきます。家紋は2万種類ほどあるといわれていますが、よほど珍しい家紋でない限りインターネットで同じ家紋を見つけることができるはずです。家紋には「丸に片喰」「違い鷹の羽」等の紋様を表す名前がついていることが一般的で、その名前まで知っておくと、家紋を誰かに伝えるときに役立ちます。
自分の家紋を調べる場合、①家族に聞く方法、②お墓を確認する方法、このどちらかの方法で判明する場合がほとんどです。
仏壇・位牌・神棚を見てみる
最近の小さくモダンな仏壇には家紋が入らないことが多いですが、大きい仏壇には上部や下部の中心部に家紋があしらわれていることがあります。さらに、香典を包む袱紗(ふくさ)や位牌の上部にも家紋が刻印されていることがあるので、家に仏壇がある場合は確認してみましょう。戒名から宗派がわかることもあるので、ルーツ探し、菩提寺探しに有益な情報が得られる可能性もあります。もし神棚が家にある場合は、神棚に家紋が入っていないかも確認しておきましょう。
家の紋付き袴を確認する
近頃はあまり見かけなくなったものの、男性の場合は成人式や結婚式等で紋付き袴を着た経験のある方も少なくないと思います。紋付き袴は江戸時代には武家の正装とされていて、庶民にまでは広がっていませんでしたが、明治時代になると広く庶民にも着られるようになっていった経緯があります。家のタンスの中に紋付き袴がしまってある場合は確認してみると自分の家紋がわかるかもしれません。しかし最近成人式でレンタルしたようなものは、自分の家と全く関係ない紋が入っている可能性もあるので注意が必要です。
家に袴がない場合は、昔のアルバム・記念写真に写った人物の中に家紋が入った袴を着用している人がいないかも確認しておきましょう。昔は自分の家の家紋があしらわれた紋付き袴が正装として認められていましたので、写り込んでいる家紋が自分の家のものである可能性が高いからです。
本家に聞いてみる
これまで紹介した方法でも自分の家紋がわからない場合は、本家に聞いてみるという方法があります。戦前の家制度の名残は徐々に薄れていっているため、最近では本家と分家がハッキリわからない方も増えてきていますが、本家の場所や連絡先を知っている場合はまず連絡してみましょう。家紋はお墓にも刻印されている比較的オープンなものなので、電話等で簡単に教えてもらえる可能性も高いといえます。ただ、自分の家紋が本家の家紋と同じである保証はないため、他の方法も使って可能な限り裏付けを取るように心がけましょう。
高度な家紋の調べ方
これまでに紹介した方法を用いても自分の家紋がわからなかった場合は、少し手間と時間をかける必要が出てきます。次の要領で明治時代までの戸籍調査からスタートして、可能な限り家の歴史と先祖を遡ってみる必要があります。
1.明治時代までの戸籍を取得(戸籍調査)
まず可能な限り古い戸籍を取得し、自分の家が本家・分家どちらなのかを判別します。戦前の戸籍には分家をした記録は残りますが、本家であるとの記載はありませんので、まずは江戸末期・明治初期に元々どの家に属していたのかを判明させることを一義的な目標とします。戸籍の取得方法については以下の記事で解説しています。
2.本家・同性宅の調査
上の戸籍調査で判明した家と手紙等で連絡をとります。昔と住所表記が変わっていることが多いため、市区町村役場で最も古い本籍地が今の住所でいうどの場所にあたるのかを確認しておく必要があるでしょう。最も古い本籍地が今は居住地でなくなっている場合は、近くの同姓宅への聞取りをする方針に変更します。同姓宅の連絡先はわからないことが多いと思いますので、現地で探したり、電話帳等で調べるしかありません。
3.同姓の墓石を見てみる
現在ではグーグルのストリートビューで現地に行かなくても風景が確認できることがありますが、墓地や墓石まで確認できることはまずありません。最も古い本籍地近くのお寺の墓地等で、同姓の墓石から家紋を推測する方法もあります。この方法は現地に行かなければできない方法なので、同姓への聞取り調査と同時に行うか、聞取り調査後に行うべき方法といえます。
難しい・忙しい場合は専門業者へ
ここまで調査できない!面倒だ!と思う方は、私達のような専門業者の活用を検討してみて下さい。専門業者であれば、一般の方より効率よく調査できて、独自のデータベースや文献等を活用して独自の方法で家紋を推測・発見していくことも可能、さらに家紋以外の家族の歴史を明らかにしていくこともできる場合が大半です。まず自分で調べてみて、もし先に行き詰まったら専門業者の存在を思い出してみて下さい。
家紋は新しく作っても大丈夫!
どうしても先祖代々の家紋がわからない!もう諦める!専門業者にも依頼しない!と決めた方は、新しく自分の家の家紋を定めたり、家紋自体を作り直したりしても問題ありません。戸籍調査や高度な文献調査まで行ってから、自分の家にゆかりのありそうな家紋を定める方法もあります。上で紹介したとおり、家紋は登録制ではなく元々自由なものだからです。先祖代々の家紋でなくても、家ごとに紋章があり、それを引き継いでいくのが日本の家紋文化です。
これまで家紋の調べ方について解説させていただきましたが、いかがだったでしょうか。どんな家紋にも由来があり、子孫に引き継いでいく意味がありますので、これを機会に日本の伝統である家紋の大切さやありがたみも見直してみて下さい。