家系図と聞くと、毛筆で書かれた巻物のようなものを思い浮かべる方も多いことから、“家系図はあくまで日本的な古いもの”というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
日本の歴史の中で、江戸時代までは身分社会が確立していたということもあり、家系や家柄は社会的に大きな意味を持っていました。しかし身分制度が廃止された現代では、単純に「自分のルーツを知りたい」ことが家系図を作る主な動機となっています。
自分のルーツへの思いは世界共通!
「自分のルーツを知りたい」という思いは日本だけではなく世界中の人々に共通する欲求といえます。特に移民が多いアメリカなどでは、自分のルーツがイギリスなのか、アイルランドなのか、はたまた別の地域なのかわからないという方も多く、ルーツに対する想いは日本人より切実です。
その欲求に応えるように、世界では様々な家系図関連サービスが開発・展開され、今でも広がり拡大し続けてきました。世界には欧米を中心として、多くの家系図会社がありますが、その中でも最も著名で大規模なのは「Ancesry.com(アンセストリー・ドットコム)」という米国企業です。
日本は家系図後進国!?
日本には、アンセストリーのような有力な系図会社が存在せず、家系図サービスの認知度も低いこともあり、日本の家系図関連の市場規模はたった3億円程度ともいわれています。海外の家系図市場は数千億円規模の市場に成長していることからしても日本は出遅れており、いわば家系図後進国ともいえる状況なのです。
これから日本でも徐々に家系図市場は拡大していくと予想されてはいますが、日本で家系図作り・先祖探しに取り組む方にとっても、世界的にどのようなサービスが展開されているのか、世界の人々がどのようにして先祖を調べているのか、を知ることは意義のあることだといえます。
本記事では、世界最大の家系図会社であるアンストリー・ドットコムについて、さらには欧米と日本との間の家系図作りの環境の違いについて詳しく解説します。
アンセストリーの会社概要
https://www.ancestry.com/corporate/
社名 | Ancestry.com LLC |
本部 | 米国ユタ州リーハイ |
創業年 | 1983年(Ancestry Publishing) |
年間売上高 | 10億ドル以上(1200億円) |
CEO | Deb Liu |
サービス | オンライン系図データベース(Ancestry.com) DNA検査(Ancestry DNA) 墓地記録検索サービス(Find a Grave) 家系図・先祖調査代行(Ancestry Pro Genealogists) 新聞記事・出版物検索サービス(Newspapers.com) 軍事記録検索サービス(Forces War Records、Fold3) 家系図共有・コミュニティ(Roots Web) 他多数 |
事業のポイント
- 年間の売上高は10億ドル以上
- オンラインで300億以上の記録
- 2000万人以上のDNAネットワーク
- 30ヵ国以上の国際市場で利用が可能
- 80カ国以上の出身国からの記録を有する
- 300万人以上の有料会員が利用している
アンセストリー(Ancestry.com LLC)は自分の先祖をたどって、自分のルーツを調べたり、まだ知らない遠い親戚がいるかどうかの調査やマッチングができるWEBサイト(データベース)を運営しています。さらに遺伝子関連サービスでは世界最大で、家系のルーツを探る調査や、自宅キットを送付して遺伝子で病気のリスクを調べるサービスを提供しています。オンラインデータベースとDNA検査を事業の2本柱として、他にも家系図作りに関する多種多様なサービスを展開し、プラットフォームを提供している会社です。
データベースで検索できる資料は、アメリカの国勢調査の記録をはじめとして、婚姻記録、入国記録、移民記録、教会や学校の登録名簿、納税記録や兵役記録など多岐にわたります。古い手書きの記録もデジタル化され、テキスト検索できるようにしているため、当該人物に関連する記録が簡単に呼び出せるようになっています。
アンセストリー・ドットコムの利用方法
利用方法は簡単で、自分の両親の名前や生年月日などの基本情報を入力すると、デジタル化された膨大な資料の中から、検索システムを使って適合する情報を探し出してくれる仕組みになっています。さらにDNA検査の結果も組み合わせて、オンラインサービス上で家系図を描き、先祖調査を効率的に進めていくことができるというわけです。
戸籍制度がないアメリカでの貴重な調査手段
日本人にはお馴染みの「戸籍制度」が日本特有のものだということは、ご存知の方も多いと思います。日本人の先祖調査では、戸籍が基礎資料として重要な役割を果たしています。一方で多国籍多民族のアメリカでは日本のような戸籍制度がないため、自分の先祖を簡単に調べることができませんでした。そんな悩みを解決するサービスとして、アンセストリーのオンラインデータベースは広く普及していきました。
アンセストリーの前身は系図関連の出版社
アンセストリーの創業は約40年前にあたる1983年までさかのぼります。アメリカのユタ州で、Ancestry.com の前身となる、家族史雑誌と家系図の参考書を印刷する出版会社Ancestry Publishingが設立されました。
アンセストリーはその後、1996年にAncestry.comの基礎となる家族史オンラインサービスを立ち上げ、サイトを公開。翌年には家族情報をCD-ROM化して販売するようになります。
2000年に、Ancestryは最初の国勢調査の画像を公開した後、継続的な投資を続け、2009年にはNASDAQへ株式を上場。今では世界最大の営利家系図会社として、家系図、歴史的記録、遺伝子系図のWebサイトのネットワークを運営するまでに飛躍的に成長しています。
現在の企業価値は6000億円以上!
最近では、2020年8月5日、プライベートエクイティ(PE)大手の米ブラックストーン・グループBX.Nによって、アンセストリーは、47億ドル(約6000億円)で買収されたことが報じられています。時価総額でみると、日本企業でいえば日本マクドナルドHDにも匹敵するような規模になります。
米ブラックストーン、家系調査の米アンセストリーを47億ドルで買収(ロイター)
アンセストリーの歩み
年 | 出来事 |
---|---|
1983年 | Ancestry Publishingが設立され、40を超える家族史と家系図の雑誌を出版 |
1990年 | 家系図や家族史の整理手段としてコンピュータを使い始め、家族史ソフトウェアとして発展。 フロッピーディスク出版に移行する |
1996年 | Ancestry.com事業を始め、家族史オンライン市場開拓への道へ |
1997年 | 家系図の発展に役立つ家族史情報をCD-ROMで提供をはじめる |
2000年 | 1930年の米国の国勢調査の画像を公開 |
2001年 | Ancestry.co.uk(イギリスでの事業展開)がスタート。国際展開を開始 |
2002年 | 家系調査にDNA検査を導入 |
2003年 | 1930年の国勢調査のデータのデジタル化を完了させる |
2007年 | フランス語、イタリア語、中国語など、海外利用者向けに多くのサイトが追加される |
2009年 | 会員数が100万人に達し、NASDAQへ株式を上場 |
2010年 | アメリカのファミリーヒストリー新番組:Who Do You Think You Are? が始まる。 この番組が成功し、TV業界との提携の先駆けとなる |
2011年 | iPad及びiPhone用の最初のAncestryアプリが発表され、数か月で100万ダウンロードを達成 |
2012年 | 200万人の加入者数を記録 |
2013年 | FamilySearchとの間で、10億件の記録をデジタル化する独占契約を締結 |
2015年 | AncestryDNAを介した検査が100万人に到達 |
2018年 | AncestryDNAのDNAネットワーク利用者が1000万人に到達し、世界最大級となる |
2019年 | DNAネットワーク利用者が1500万人に到達。 最先端の人工知能搭載の検索可能な世界最大のデジタルアーカイブを登場させる |
2020年 | Ancestryの加入者が、350万人を超え、先祖の記録は270億件に到達 米ブラックストーン・グループのBX.Nによって、47億ドル(約6000億円)で買収される |
2021年 | DNAネットワークが新しい節目の記録、2000万人に到達する オンラインデータベースの先祖記録は300億件を超える Facebookの元幹部であるDebLiu氏がCEOに就任 |
年表形式でこうしてみてみると、創設以来、家系調査に特化しぶれることなく着実に投資を続け事業を拡大させてきていることがわかります。アンセストリーの歴史は、先祖探しのマーケット創造の歴史ともいえます。中でも先祖調査にDNA検査を導入したことが大きなターニングポイントであり、普及の起爆剤になりました。そしてその膨大なDNA検査結果のネットワークが蓄積され、新しい価値を持つデータベースとして進化し続けているのです。
アンセストリーの多様なサービス群
次にアンセストリーが提供しているサービスを一つ一つ紹介していきます。オンラインデータベース(Ancestry.com)とDNA検査(AncestryDNA)の2つが主要なものですが、他にも様々なサービスを提供しています。各サービスの簡単な解説に加え、日本との環境の違いや、日本で同様の調査をするためにはどのような手段があるのか、についても解説します。
Ancestry.com(オンラインデータベース)
https://www.ancestry.com/c/ancestry-family
Ancestry.comは、アンセストリーの主要なサービスの一つで、家系図・先祖に関連するオンラインデータベースを検索できるサービスです。サブスクリプション型で、月額20~60ドルを支払うことにより、サービスを利用することができます。
ポイント
- 名前、両親や祖父母、誕生日、住所、職業、収入など可能な限りの情報を入力
- 数十億の記録の中から可能性のある情報が提示される
- 更に詳細に探索してゆけば祖先や家系図の発見につながる可能性がある
- アンセストリーは、日々200万件の記録を追加しており、可能性が広がり続ける
データベースに収録されている多くの資料
資料名 | 備考 |
---|---|
誕生日、洗礼、結婚と離婚、死亡、埋葬、墓地、死亡記事 | 祖先・人物の基本情報となる |
国勢調査と有権者リスト | 米国、英国、カナダなど |
移民と旅行 | 乗客リスト、市民権と帰化の記録、国境検問所とパスポートなど |
軍隊 | 徴兵・入隊・兵役、死傷者、兵士・退役軍人・捕虜名簿など |
学校、住所録、教会の歴史 | 市と地域の住所録、専門家及び組織名簿、教会の歴史と記録など |
税金、犯罪者、土地、遺言 | 米国の遺言と検認、土地登記、裁判所・政府及び刑事記録 |
人物証明書、人名辞典、年鑑 | 一般的な人物証明資料、研究指導と検索補助、辞書と百科事典 |
家系図 | 著名人など |
小説や出版物 | 小説・追悼・歴史、新聞、定期刊行物と雑誌 |
写真と地図 | 写真、地図・世界地図・地名集 |
特別コレクション | アフリカ系アメリカ人のコレクション、アメリカインディアンの記録、ユダヤ人の家族歴、NY州の記録、クエーカー教徒のコレクションなど |
日本の場合:国立図書館などのDBが代替になる
日本には、先祖探しに特化したオンラインデータベースは存在しませんが、国立国会図書館デジタルコレクションに収録されている人名録、郷土誌などの資料や、国立公文書館のデジタルアーカイブの中に、先祖の記録が収録されている可能性があります。これらは行政機関が運営している公共のサービスなので、誰でも無料で利用することができます。
AncestryDNA(DNA検査)
https://www.ancestry.com.au/dna/
AncestryDNA®は、アンセストリーのもう一つの主要なサービスであるDNA検査を活用して先祖を探索するサービスです。高度なゲノム科学を用いて利用者のDNA適合探索を行い、遺伝子学的な視点から自分のルーツを知ることができます。AncestryDNAは2,000万人を超える利用者をもつ、世界最大の消費者向けDNAネットワークであり、料金も100ドル程度と手軽なのが特徴です。DNA検査とオンラインサービスを組み合わせたプラン構成で、世界中で多くの方に利用されています。
日本の場合:代替サービスなし
日本にもDNA検査サービスは存在しますが、多くは遺伝的な病気リスクなどを診断するものです。中には母親由来のミトコンドリアDNAを検査して数十万年前から数万年までの祖先の移動経路などや、民族構成(日本・韓国・中国など)を調べるものも存在していますが、自分の先祖に関する具体的なことがわかることはありません。ほとんどの日本人にとって、数万年前の先祖の情報よりも江戸・明治時代や戦国時代、さらには中世(鎌倉・室町時代)武士などが関心事ですから、“数万年前のことだけ”がわかっても実感が乏しいのは当然です。ほとんどの方は、数百年前の先祖が武士だったかどうかや、家の言い伝えが本当だったのか、が知りたいのです。
また日本では、そもそもDNA検査を実施している方が少ないことに加えて、実施したデータ自体も共有されていないため、アンセストリーのサービスのように知らない遠い親戚とつながる(マッチングする)ことがありません(プライバシーの問題)。そういった点で、日本人の先祖調査ではDNA検査は有効な手段とはいえない状況です。
しかし日本人といっても海外(特に欧米)にルーツを持つ方やハーフ・クオーター・ワンエイスの方などは、海外の遠戚とつながる可能性があるため、DNA検査は有効な手段になり得ます。その場合は、日本で提供されているDNA検査ではなく海外で提供されているアンセストリーのようなDNA検査を利用する必要があります。
Ancestry Pro Genealogists(先祖調査代行)
https://www.progenealogists.com/
Ancestry Pro Genealogists®は、プロの系図研究者や遺伝子学者のチームが依頼者の家系図を調べる代行サービスです。定型的なプランはなく、まず見積もりをとることが基本となりますが、料金は高額(100万円以上)になるケースが多いといわれています。専門的な調査をプロに任せることにより、確実な調査を効率的に実施してもらうことができます。
日本の場合:少数ながら代行業者が存在している
本サービスは私達のような家系図作成・先祖調査業者と本質的には同じものですので、日本でも手段は違えど同様のサービスの提供を受けることができます。しかし家系図業者や研究者の数は欧米とは比較にならないほど差があります。これは日本国内で家系図のマーケットが発達していないことが主たる理由です。
日本の家系図作成代行業者の場合、戸籍収集と解読のみを行なう業者(行政書士など)か、さらに深い調査まで行なう専門的な業者にわかれます。詳しく知りたい方は以下の記事をご一読下さい。
Find a Grave(墓地記録検索)
Find A Grave™は、その名の通りの墓地記録検索サービスです。1995年以降に作成された墓地の1億6000万枚近くの写真と、1億8000万枚以上の記念碑に関する情報が収録され、先祖を探すための資料として活用することができます。
日本の場合:代替サービスなし
日本にはFind a Graveのような墓地記録の検索サービスは存在しません。しかし日本でも、墓地や墓石が先祖探しに有効であることは言うまでもなく、私達もこれまで多くの墓地、墓石を調べてきています。日本には寺請制度というものがあり、江戸時代の調査では寺などが管理する過去帳も重要な資料となるためです。また寺以外では、神社の境内などにある石碑などに先祖の名前が刻まれていることもあります。
仮に日本で墓石や墓地記録を網羅した検索サービスを展開するとなると、まず墓地管理者や寺院の協力が必要になることに加え、お墓の所有者のプライバシーの問題も出てくるため、今後も日本では墓地記録のオンライン検索サービスは登場しずらいと考えられます。そのため、日本ではお寺の住職に依頼して墓石を確認してもらうか、墓地に直接出向いて調べなければならないことになります。
Newspapers.com(新聞記事検索)
Newspapers.com™は、膨大な量の新聞記事や出版物を検索できるオンラインサービスです。The Los Angeles Times、Detroit Free Pressなどをはじめとする80億を超える記事と、約20,000の出版物が収録されています。これらの中を横断的に検索し、自分の先祖探しのヒントを得ることができます。
日本の場合:図書館で閲覧と検索は可能
日本で新聞が発刊されはじめたのは明治時代で、昔の新聞記事から先祖の名前が見つかるケースも少なくありません。主要な全国紙(朝日・毎日・読売)では新聞のオンライン検索サービスが提供されていますが、原則法人向けで、導入費用も数十万程はかかります。一般向けに記事は公開されていないため、大きな図書館などで導入されているサービスを利用するのが最も現実的です。私達も国立国会図書館(東京本館)などを利用して各紙の情報にアクセスしています。地方図書館などでは新聞データベースが導入されていないことも多いです。
また、地方紙の場合はそもそも昔の記事のデジタル化自体がされていないケースが多いため、図書館などでアナログ式に一つ一つ記事を探さなければいけないことになります。この場合、発刊された日付などを限定しなければ調べることは難しいです。膨大な過去の新聞記事から先祖に関連する方法を探し出すことは、現実的に考えて不可能です。
Roots Web(家系図共有・コミュニティ)
Roots Webは家系図を共有したり、情報交換をする無料コミュニティです。家族史に専念した何百万人もの会員が、何千もの掲示板で情報交換をして学び協力することができる最も古くて最大の無料のオンライン共有サイトです。Roots Web 内のThe World Connectでは、利用者の家系図を他の研究者、利用者と共有することが可能で、家系図をアップロード、変更、リンク、および表示することができます。
日本の場合:大規模なコミュニティはなし
日本でも末日聖徒イエス・キリスト教会が運営している「Family Search」を利用することで、系図の共有などは行なうことができます。しかし、そもそもアメリカと日本で個人情報に対する認識の違いも大きく、家系図自体を持っている方が少ないことに加え、家系図を他人と共有することに抵抗を感じる方も少なくないのが現状です。先祖探しに関するコミュニティも個人運営の小規模なものしか存在していません。
Forces War Records(軍事記録)
https://www.forces-war-records.co.uk/
Forces War Recordsは、英国およびその他の連邦諸国から2,600万件を超える軍事記録を検索できるサービスです。英国の主要な軍事系図専門家のWebサイトであり、祖先が関わった軍事史を発見して状況を把握するのに役立ちます。
Fold3(軍事記録)
Fold3®は、オリジナルの膨大な軍事記録コレクションが収録され、それらを検索することができます。記録には、軍隊に勤めた男性と女性の物語、写真、個人的な文書も含まれています。英雄といわれる軍人や、彼らを支えた家族についての物語もあります。アメリカ独立戦争、インディアン戦争、第一次世界大戦など、戦争ごとに記録を閲覧することもできます。
日本の場合:軍歴証明書を取得する
日本には軍事記録のオンラインデータベースは存在しませんが、都道府県や厚生労働省が保管している「軍歴証明書」などを請求・取得することなどにより、先祖の軍歴を調べることができます。ただ軍歴証明書には満州事変(1931年)以降の記録しか残されておらず、それ以前の日清・日露戦争の従軍した人物の記録などは地域の郷土誌などを探していくしか方法がありません。また、靖國神社の偕行文庫(東京都千代田区)や、防衛省防衛研究所(東京都新宿区)などでも軍人の先祖の情報や、軍事記録などを探すことができます。軍歴証明書の取得方法については以下の記事で詳しく解説しています。
Ancestry Academy
https://www.ancestryacademy.com/
Ancestry Academyは、家族史・系図・DNAの専門家による無料のビデオ教材です。様々なテーマで専門家が解説を行っており、初心者でも家系図作りを効率的に学ぶことができるようになっています。
Ancestry Academyの動画を見るだけで、海外では多くの家系図の専門家が活躍していることがよくわかります。海外では日本と異なり「系譜学」が一つの学問としての地位を認められていることも大きな要因といえます。
日本の場合:系譜学が未発達…
日本では系譜学という分野が未だに一般的な学問として認められていません。認められていないばかりか、そもそもの認知度も低いレベルでとどまっています。そのため、系譜学の研究者も少なく、専門家自体が非常に少ないのが現状です。
系譜学を提唱した人物としては立命館大学教授・太田亮氏(1884-1956)が著名ですが、今のところ日本の系譜学は教育機関で学問として学ぶものとは捉えられておらず、カルチャースクールなどで学ぶような個人的趣味の延長としてしか考えられていないような状況です。しかし日本でも徐々に家系図への関心は高まっていることから、今後は専門家や研究者が増えてくる可能性はあります。
アンセストリーの日本展開は?
世界最大の家系図会社であるアンセストリー・ドットコムが多様なサービスを提供していることがご理解いただけたと思います。日本と比較してみると、サービスの多様性やスケールの違いに驚かれた方も多いのではないでしょうか。一方でアンセストリーのオンラインサービスには今のところ日本語サイトも存在せず、日本で積極的に事業を行っていません。これには次のような要因があると考えられます。
- 日本人のルーツがほぼ国内で完結すること
- 日本では家系図作りの認知度が低く市場が小さいこと
- 日本と欧米では先祖を調べる方法が異なること
- 日本に系図や遺伝子情報を共有するハードルがあること
- 言語(英語圏)のハードルがあること
日本は島国であり、文化や歴史においても様々な点で独特なため、アンセストリーが培ってきたグローバルな先祖探しのノウハウがほとんど通用しないということはなんとなくご理解いただけると思います。さらに、日本のプライバシー保護の条件をクリアするのが難しいといわれています。このような理由から、アンセストリーが日本に参入する可能性は低いのではないかと思われます。これは、今のところは日本人は日本特有の先祖の調べ方で取り組まなければいけないということを意味しています。
日本の先祖調査にもメリットは多い!
日本人の家系図作りに関しては、海外で広く普及しているDNA検査が使えないという点はデメリットだといえますが、戸籍制度があるという点は大きなメリットだと捉えることができます。さらに、行政や国立の図書館が資料のデジタル化や公開に取り組んでいることから、日本でも先祖調査の環境は少しずつ改善してきています。市区町村単位の教育委員会が郷土誌を発刊していることや、全国各地の図書館、郷土資料館、古文書館が自治体の予算でしっかり運営されていることも大きなメリットです。
海外と日本では家系図作りの環境は大きく異なりますが、ルーツへの思いは世界共通。世界屈指の長い歴史を持つ日本で家系図作りをすることで、日本という国の素晴らしさに触れることもできます。特に国際化が進む近年では、世界に向けて自国の歴史や自分のルーツについて語れることの重要性が再認識されています。
皆さんも是非、自分自身を知るため、さらには自分自身のルーツである日本という国を知るために、ご先祖探しに取り組んでみましょう。