あなたは、自分史という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

最近では、自分の遺言書の書き方を指南する本が売られていたり、自分の生涯を記した本を出版する人や、またそのサポートをしてくれる業者も多く見かけたりするようになりました。しかし自分史と言っても、具体的にどんなもので、どうやって作っていくのか、今一つあいまいで分かりにくい…という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、自分史とはいったい何なのか、また自分史を作成する意義やメリット、さらには作成する際の具体的なヒントまで、幅広くご紹介しようと思います。

自分史とは? 従来の自伝や自叙伝との違いは何?

字面からも想像できるかもしれませんが、自分史とは、自分のたどってきた人生を様々な手段で表現したものです。

この言葉を初めて用いたのは、民衆思想史を専門としていた歴史家、色川大吉氏だと言われています。色川氏は著書『ある昭和史 – 自分史の試み』の中で、自分史を“無名の人々が真実を表現する行為”と位置づけました。つまり、自分史は誰でも手掛けることができるものなのです。何らかの功績がある人々が対象だった、従来の自伝や自叙伝との大きな違いがここにあります。

なぜ自分史を作るのか? 専門家や学識者が考えるその意義

ところで、自分史を作成する意義とは、一体どんなものがあると考えられているのでしょうか。専門家や学識のある人々の見解を2例ほど見てみましょう。

先程ご紹介した歴史家の色川氏は、自分史という表現を使った理由を「巨(おお)きな歴史のなかに埋没しかかっていた個としての自分をはっきり歴史の前面に押しだし、じぶんをひとつの軸にすえて同時代の歴史をも書いてみたかったから(『“元祖”が語る自分史のすべて』)」と書いています。ここでは、自分を中心にして自分の生きた時代を表現することがその意義だと述べられています。

また、ジャーナリストであり作家でもある立花隆氏は、自分の人生を知る方法の一つとして自分史の作成を上げています。同氏は、大学での「自分史の書き方」という中高年を対象とした講座で、“セカンドステージ(60歳以降)”をデザインするためには、“ファーストステージ”を見つめなおすことが重要で、そのために自分史を書くべきであると述べています。

以上2つの例からだけでも、自分史を作成する意義はさまざまに述べられていることがわかります。

自分史を作って得られるメリット

では、自分史を作ることによるメリットには、具体的にどのようなことが挙げられるのでしょうか。いくつかの例を述べてみましょう。

自分の生きてきたあかしを残せること。

あなたの体験は、あなた自身が残そうとしない限りは消えてしまうものです。自分史を作ることで、その体験は形になって残ります。それは、あなたの家族や友人、知人、さらには子孫にまで伝わり、存在し続けるのです。やがてそれは後世に価値がある知恵や知見となり、また、 のちの人々があなたの生きた時代を捉えなおす時の貴重な資料ともなるのです。

自分を客観視し、改めて捉え直せること。

自分の体験を記憶から呼び起こして記述することは、自分自身を客観視していくことにほかなりません。それは自分という人間を改めて認識すると同時に、過去の体験の再解釈にもつながっていくのです。例えば、悔悟、嫌悪などが伴う挫折や憂き目といった体験でも、改めて捉え直すことでその解釈が変わるかもしれません。当時はマイナスの感情でしか評価しなかったことに実は意味があったとい う発見は、この先のあなたの人生をより豊かにするための糧となることでしょう。

生きがいを再度取り戻すきっかけになること。

忙しい日々の中で記憶の中に埋もれていたさまざまな趣味、好きだったり得意だったりしたこと…。そうしたものを再度記憶から掘り起こせるかもしれません。 これらの発見もまた、あなたの人生をより豊かに実らせていく養分となるはずです。

自分が好きになるヒントになること。

自分史を作ると聞いたとき、「自分には、のちに残せるような価値がある歴史なんてない」という人も多いかもしれません。誇れる功績も優れた能力もなく、平々凡々とした人生だと。しかしあなただけのものである以上、それは唯一無二の価値があるものです。そして、その中には光るものが必ずあるはず。部活での辛い日々に耐えた思い出、切ない青春の一コマ、疲れた日々に見た夕日の美しさに感動して涙した記憶。そうした日々の生き、今ここにあなたがいることに思いい たれば、それは自己の肯定、自信や自尊心を高めることにもつながっていくはずです。

自分という軸を取り戻せること。

日々忙しい中で、いつしかその生活は周囲への気づかいや遠慮、仕事の都合や家族との関係が優先となり、自分がどこへ行ったのかわからない、自分がしたいことに気づかないといった感覚に陥っている人もいるかもしれません。これまでの自分を振り返ることは、そんな埋もれていた自分自身を探り当てること。それは今後の日々を過ごしてい くうえで、自分という軸をしっかりと据えて歩んでいくための素地となることでしょう。

他人とのコミュニケーションツールとなること。

自分史は、自分の内容だけで完結するものでは決してありません。あなたが関わってきた多くの人々が、そこには含まれています。自分史を作成することは、そうした人々との会話のはじまりとなるかもしれません。もしかしたら、これまで交流が断たれていた人々とのつながりが復活する契機になるかもしれませんよ。

以上、いくつかのメリットを挙げてみましたが、いかがでしょうか。自分史を作成することが単にそれだけの行為にとどまらず、自分の世界を深め、他人とのつながりを大きくする素晴らしい機会となることがご理解いただけたのではないでしょうか。

自分史の作り方

自分史を作るといっても、その作り方がわからない…。そうお思いの方も多いと思います。

実は自分史を作る際に、こうしなければならないという決まりはありません。何をどう書いても、それはあなたの自由です。あなた自身の人生について、あなたが記したいことを記していく。それが自分史の基本だからです。作り方は自由。そのことは常に忘れないでいただければと思います。

自分史を作る際のヒント

しかしいくら自由とは言っても、何か指南がなければ難しいという方もいらっしゃるかもしれません。そこで、自分史を作成する際のヒントを、いくつか以下に挙げてみようと思います。

自分史を作る理由を明確化させましょう。

今回、どうして自分史を手掛けようと考えたのか。それをはっきりさせておけば、実際に作成する際にも軸がぶれず、自分の伝えたいことがあやふやになってしまうことも避けられます。例えば、かつての戦時中に辛い体験をされた方が、その当時の出来事や生きるための知恵、思いを孫に伝えたい、など。そのような理由を明確にして、それを常に念頭に置いて作業を進めていくのがおすすめです。

誰に読んでほしいのかを決めておきましょう。

主な読者を想定することは、自分史を書く内容を定める手掛かりとなります。例えば、自分としては息子や娘、孫に読んでもらいたい自分史なのに、その内容が会社での出来事や体験ばかりだと、読み手にもなかなか理解が難しくなってしまいます。家族に読んでもらうことを目的とするならば、その人々に関連した内容を多く盛り込むことが大切です。このように、あらかじめ読み手を決めておくことは大変重要なのです。

どんな形式にするかを決めておきましょう。

先程もお伝えしましたが、自分史には決まった形式がありません。イラストを添えたり、写真を添付したり。あるいは動画で作ってしまうなど、さまざまな方法があるのです。自分の作成しやすさに加えて、先に述べたヒント“誰に読んでほしいのか”も念頭に置いて決めるのがおすすめです。

いつまでに作るか決めておきましょう。

個人の自分史と言ってもれっきとした作品ですから、やはり作業開始と終了予定は明確にすべきです。期限を定めないとそのモチベーションも得てして下がりがちです。それどころかいつまで経っても完成しないという状況になりかねません。

自分で作成するか、依頼をするかを決めましょう。

実は、必ずしも自分史は自分で作成するべきものである、というわけではありません。文章で書きたいが、肝心の文章作成が苦手だという人は、外部に依頼することもできます。ただし、外部に依頼する際はそのコストなども勘案することが必要ですね。しかし、いずれの場合でも、次のヒントがとても重要になります。

作成前にできるだけ準備をしておきましょう。

自分で作成するにせよ、外部に依頼するにせよ、そのための資料や準備はできるだけ作成前に整えておきましょう。いざ作成に入ったあとに資料や準備に追われてしまうと、文体のぶれや矛盾の発生、あるいは製作途中でのモチベーションの低下など、さまざまな問題が起こりがちです。また、外部に依頼する際に準備不足だと、そのせいで出来上がりのクオリティーが下がってしまう恐れもあります。それらの問題を防ぐためにも、事前にできる準備はしっかりと行っておきましょう。

以上、自分史を作成する際のヒントをいくつか述べてみました。これらのヒントを参考に考えていただければ、きっとあなただけの自分史が具体的な形を持って浮かび上がってくるはずですよ。

まとめ

いかがでしたか?今回は、自分史についての内容やそのメリット、それに具体的な作成の際のヒントなどをご紹介しました。

最後に家系図と自分史の関係についてですが、例えば家系図の作成がご家族の歴史の“骨”にあたる部分を浮かび上がらせていくものだとしたら、家族それぞれの自分史を作成することは、それ ”肉”づけ、ご家族の歴史をより豊かに彩っていく行為だと表現できるでしょう。ですから、ご家族の家系図に、あなた自身やご家族の自分史が出そろった時、そこには色彩に満ちたご家族の歴史が垣間見えるに違いありません。

家系図作りがひと段落した方には、次はぜひ、自分史の作成にチャレンジしていただければと思います。