日本国民の戸籍は永久に保存される?
日本の役所はしっかりしているから、戸籍は永久に保存してくれるだろう…
戸籍は後からでも取れるから、退職してから、ゆっくり取り組もう…
そう考えているなら、改めて戸籍の保存状況について詳しく知る必要があります。平成22年(2010年)に、戸籍の保存期間が「80年」から「150年」に延長されたことはご存じかもしれませんが、実際にどの期間の戸籍が廃棄の対象となっていたのか、実際にどの程度の戸籍が今残存しているのか、そこまで詳細には知らない方が多いのではないでしょうか。
この記事では、多くの人がフワッと理解している「戸籍の保存期間」に関する正確な情報と、その注意点について、専門家の視点で解説します。
目次
廃棄対象の戸籍とは
家系図作りに必要なのは、手元の新しい戸籍ではなく、役所の倉庫に眠る「過去の戸籍」です。しかし、これらには保存期間があり、期限を過ぎれば、自治体の判断により廃棄(処分)されてしまう可能性があります。
廃棄対象となる「2つの戸籍」
保存期間のカウントダウンが始まっているのは、主に以下の2種類です。
1.除籍謄本(じょせきとうほん)
結婚や死亡で家族全員がいなくなり、「空っぽ」になって閉鎖された戸籍。
2.改製原戸籍(かいせいげんこせき)
法律の改正(平成のデータ化など)で様式が書き換わる前の、古い紙の戸籍。
これらは「役目を終えた翌年」が保存期間の起点になります。かつて、この保存期間は当初「50年」、その後「80年」に延長されましたが、高齢化社会に対応するため、平成22年(2010年)の法改正で期間がさらに「150年」へ延長された経緯があります。次に、この2010年の法改正を深く掘り下げてみましょう。
戸籍の保存期間延長(150年)の詳細
戸籍の保存期間を考える上では、2010年の法改正を詳しく理解する必要があります。つまり、保存期間が延長されたのは当時の時点で、
- 保存期間80年が残存している戸籍のみだったのか
- 当時の時点で残存している全ての戸籍だったのか
という点が一つの論点になります。この点については行政から出されている通達により明らかにされています。
【通達】平成22・5・6民1ー1080号通達第1の1
平成22年法務省令22号によって、除籍簿等の保存期間は150年に延長されたが、既に保存期間を経過している除籍簿等で廃棄決定していないものについても、同様とする。既に保存期間を経過している除籍簿等で廃棄決定をしたものであっても、市区町村が廃棄処分を留保して保管しているものについては、当該廃棄決定を取り消し、改正後の保存期間に関する各規定を適用するものとする。
このような通達が出されていることから、2010年時点で残存している全ての戸籍が保存期間延長の対象だったことがわかります。しかし、当時すでに廃棄されてしまっている戸籍があることには変わりありません。次に、どの範囲の戸籍が廃棄されてしまっている可能性があるのかを見ていきます。
判断のポイントは「昭和5年(1930年)」
法改正が行われた2010年から、旧保存期間の80年を引いてみると、答えは1930年、和暦でいうと昭和5年です。つまり、ご先祖の戸籍が昭和5年(1930年)以前に「除籍」や「改製」によって閉鎖されていた場合、行政の判断によって廃棄されてしまっている可能性があるということになります。
この点につき、昭和5年(1930年)では既に明治19年式戸籍(1886年)と明治31年式戸籍(1898年)は改製原戸籍になってしまっている計算となり、大正4年式戸籍(1915年)に関しては保存期間の狭間にまたがっているイメージで、法律的に廃棄可能だったのは明治戸籍の保存期間が切れ始める1970年代から2010年の間と推定されます。また、2010年時点では、日本で管理されている「明治時代の全ての戸籍」が行政の判断で廃棄可能な状態になってしまっていたことになります。
役所が戸籍を廃棄する理由
「国民の貴重な記録を役所が勝手に捨てるはずがない!」国民としてはもちろんそのように期待します。しかし役所にも戸籍を廃棄する理由があり、その大きなものの一つとしては「物理的な保管スペースの不足」が考えられます。
平成の大合併などで役所が統合されたり、庁舎の建て替えが行われたりする際、倉庫の整理が断行されます。その時、真っ先に処分の対象となるのが「保存期間を過ぎた書類」です。 担当者も個人的には「残したい」と思っていても、法律上の保存義務がなく、さらに新しい書類で倉庫が溢れかえっている状況では、ルールに従って廃棄せざるをえない状況もあると考えられます。さらにパソコンが普及する1980年代以前では「データ保存」という意識も薄く、そのコスト負担も大きかったものと思われます。
役所が戸籍を捨てるにはこのような事情があったことも理解しておきましょう。
自治体による保存状況の「格差」
次に知っておきたいのが、「自治体によって保存状況がバラバラ」という点です。
| A市の場合 | スペースに余裕があり、歴史的資料として独自の判断で残している |
|---|---|
| B市の場合 | 倉庫が満杯のため、保存期間が満了した年度のものから順次処分していた |
このように、本籍地がどこにあるか、その役所の倉庫事情がどうなっているかによって、状況が変わります。 A市なら取れたはずの記録が、隣のB市では先月廃棄されていた、ということが、現実に起きています。
古い戸籍が残っているかどうかは、実際に請求してみるまで誰にも分かりませんし、役場の窓口でも具体的なことは教えてもらえません。だからこそ「とりあえず今すぐ請求してみる」姿勢が大切です。
廃棄されていた場合の対処法
役所に戸籍を請求した結果「保存期間経過のため廃棄されました」と告げられることがあります。大抵の場合はそのまま引き下がってしまうことが多いと思いますが、廃棄されてしまっていた場合でも、必ず手に入れておいてほしい書類があります。
忘れがちな「廃棄証明書」
窓口や電話で「もう戸籍は無い」と言われたら、必ず「廃棄証明書」「焼失証明書」「不存在証明書」の発行を依頼するようにして下さい。これは「その戸籍がかつて存在したが、保存期間満了により廃棄された」という事実を、役所が公的に証明する書類で自治体によっては無料または300円程度の手数料で発行してもらえる証明書です。「何もない」のと「無いことが証明されている」のとでは、調査の完成度が全く異なります。
なぜこれが必要かというと、以下の2つの理由があります。
1.調査終了の公的な証拠
「これ以上、役所ルートでは遡れない」という確定診断になります。曖昧なままにせず、ここで気持ちを切り替えるための重要な区切りです。
2.専門家に引き継ぐ際の資料
もし将来、より深い調査をプロに依頼する場合、「ここまで調査済み」という証明書があることで、無駄な再調査コストを省ける場合があります。
私達がお客様の戸籍調査を実施する際は、この「ないことの証明書」も必ず合わせて請求します。お客様ご自身で収集された戸籍が持ち込まれた際にも、この書類があれば再調査の可否がその場で判断できるため、非常に効率的になります。
自治体によっては「(無いことは確かだが)確認まではできない」という理由で証明書の発行を断られる場合もありますが、その場合は自分なりのメモを残しておくようにしましょう。また、2024年3月からスタートした戸籍の広域請求の制度では「ないこと証明書」は請求できませんので覚えておきましょう。
廃棄リスクが高い自治体
「どこの役所なら記録が残っていますか?」 よく聞かれる質問ですが、残念ながら公式な「廃棄リスト」は存在しません。しかし、私たちが調査する中で感じる明確な傾向はあります。
東京・大阪・横浜などの大都市は要注意
最もリスクが高いのは、「東京23区や政令指定都市などの大都市圏」です。 理由は単純で、人口が多く保管スペースが圧倒的に不足しているからです。地方なら「倉庫に余裕があるから置いておこう」となる書類も、都会では管理ルールが徹底され、保存期間満了とともに即座に廃棄(溶解処分)されるケースが目立ちます。さらに、大都市では廃棄とはべつに空襲などによる「戦災による焼失」が多いことも特徴です。
合併で統合された自治体も注意
次に危ないのが、「平成の大合併などで庁舎が移転・統合された自治体」です。 役所の引越しは、書類整理の最大のきっかけです。「移転時の荷物を減らす」という名目で、保存義務の切れた古い除籍謄本がまとめて処分されてしまった事例は少なくありません。
逆に、昔から庁舎が変わらない地方の町村部では、明治時代の記録が手付かずで残っているケースが多い傾向があります。 もしあなたの本籍地が「都会」や「合併した新しい市」にあるなら、少しリスクがあると考えておきましょう。
戸籍が取れなかった場合の代替手段
戸籍がすでに廃棄・焼失されていたとしても全く諦める必要はありません。次のような代替手段で違うアプローチを試みて下さい。
1.旧土地台帳
明治・大正時代の土地所有者が記録された台帳です。現在は法務局が管轄しており、保存期間の縛りが戸籍とは異なります。本籍地の地番が分かれば、そこからご先祖様の氏名が判明することがあります。
2.過去帳
実家のお墓があるお寺には、江戸時代からの戒名や俗名、没年月日を記した「過去帳」が残されていることがあります。お寺の記録は行政の保存期間とは無関係なため、戸籍に書かれていたはずのご先祖の名前が残っている可能性があります。過去帳はお寺と同じ内容が書かれた「自家の過去帳」が仏具として保管されているはずですので、実家も探してみましょう。
3.お仏壇の位牌や墓石
灯台下暗しですが、位牌の裏や墓石の側面には、戸籍以上の情報(没年齢や旧字体など)が刻まれています。
4.郷土史・人名録等の文献
戦前の資料や名簿類には現代では考えられないようなプライベートな情報(人物の家族構成や学歴等)が書かれている場合があります。資料探しが難航したら、公開されている文献からもご先祖の名前を探してみましょう。
プロの視点から見れば、戸籍がないことは「調査手段を変えるきっかけ」に過ぎません。「戸籍が無かった」と落ち込む前に、まずは廃棄証明書を手に入れ、次の手段へ視点を広げましょう。
これだけは覚えておきたい4つのポイント

最後に、本記事の重要ポイントを4つに整理します。
- 保存期間の延長(150年)は「2010年時点で残っていた戸籍」が対象
- 戸籍が廃棄・焼失していた場合は「ないこと証明書」を必ず入手しておく
- 実際の現場の感覚では、7割以上の戸籍が捨てられずに残っている
- 150年の保存期間についても、決して安心できる状況とはいえない
年間に10,000通以上の戸籍を請求している私達の感覚としては、「廃棄」だけでなく「焼失」も含めた戸籍の保存状況は7-8割程度です。廃棄されているものがあるといっても、大部分はまだ残されている状況です。戸籍が廃棄・焼失していた場合は必ず「ないこと証明書」を発行してもらう必要がありますが、それは広域請求制度では集めることはできません。また明治維新(1868年)から150年が経過している現在においては、150年の保存期間についても、安心できる状況とはいえませんので、やはり「早く請求してみる」姿勢が肝要です。
「戸籍の収集を始めたいが、忙しくて時間がない。」
「廃棄証明書」の請求も含めて確実な戸籍収集を実施したい。」
そんな方は、私達のような専門業者の利用もご検討下さい。
参考文献
戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)
『令和7年度版戸籍実務六法』日本加除出版法令編纂室編
『旧法(戸籍・相続・親族)の基礎知識』大里知彦著


























