過去帳というものをご存知ですか?あまり聞き覚えのない言葉かもしれませんが、その家で亡くなった人の名前をはじめとする、さまざまな情報を記した帳面のことを指す言葉です。こう聞くと、「家系図と同じではないのか」、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし実際には、過去帳と家系図にはいろいろなところで違いがあるのです。そこでこの記事では、過去帳とはどんなものなのか、そして家系図とはどのような点が異なるのかについて、詳しく解説いたします。

過去帳とはどんなものか

家系図と聞けば、なんとなくこんな物かな、と想像がつきそうですが、「過去帳」と言われると、どんなものなのかイメージがつきづらい方も多いのではないでしょうか?

過去の帳・・・と言われてもピンときませんよね。一体どのような内容が書かれている物なのでしょうか。先に答えを言ってしまうと、過去帳(かこちょう)というのは仏具の1つであり、その家の故人の名前、戒名、死亡年月日、享年などを記した帳面のことなのです。

仏具

過去帳は仏具店等で購入することができ、その道具としての位置付けや書かれる内容等は仏教の宗派によって異なります。また過去帳は仏具ですので、記入する際もサインペンやボールペンで気軽に書くようなものではなく、通常はお寺の住職や故人にゆかりのある方に筆と墨で揮毫(きごう)してもらうものです。

また、過去帳に書かれた文字は長い年月の経過にも耐える必要があります。墨で書かれた文字は長期の保存にも耐えるため、そうした意味でも墨を使うことが適しているのです。なお、過去帳の種類としては寺院用と在家用のものが存在します。とくに後者については、年忌などの機会に、家で保管している位牌や法名軸の内容をお寺の住職に転写してもらうときに使用します。

こうすることで、位牌などの経年劣化に備えて、その記載内容を過去帳で保全しておくことが可能になるのです。ちなみに、今回は詳しく触れませんが、過去帳は仏教だけではなく、神道でも同じような目的で用いられています。

家系図は仏具ではない

一方で、家系図は仏具ではありませんし、宗教的な物でもありません。無宗教の家系であったとしても、家系図をお持ちの家は沢山あります。家系図は、血筋や、その家の先祖など、家系の全体像をわかりやすく把握し、保存しておくための物です。過去帳は常にその宗教や宗派の教義に即して内容が記載されますが、家系図はあくまで家督継承の系統を軸とした内容が記載されているという点に、両者の大きな違いがあります。

過去帳は、亡くなられた故人の戒名などを記載しておく帳簿のことですので、家系図のように、1つの物で先祖代々を把握するということではなく、亡くなられた方の情報を表している系譜のようなものとイメージしていただければ良いと思います。

過去帳は、折本と和本のものとがあり、折本とは、お寺のお坊さんなどが使っているお経などが書かれているような蛇腹の本です。実際に、折本は寺院で保管しておくための過去帳で多く用いられている形式です。一方で和本は、今でいうノートに近いものです。在家用の過去帳にはこちらが多く採用されています。

日本史などのドラマが好きな方などは、テレビで目にされた方も多いと思われますが、よく武士のような人たちが、ノートのような分厚い物を読んだり、そこに筆で書き込んだりしているのを見たことはありませんか?そのものとよく似た形の物だと思って頂ければと思います。

古書

過去帳の内容ですが、日付が入っているものと、入っていないものに分けることができます。 日付が入っているものは、1日~31日までの日付が入っているので、亡くなった日の欄に記入することができるようです。

日付が入っている過去帳の場合、亡くなられた方の命日を確認して、供養などを行います。一方、日付がない過去帳の場合は、亡くなられた方の順番に記入する形となります。ですので、どちらかというと、日付がある物に比べれば、記録する為の物という意味合いが強く、お寺などではこの過去帳が使われることが多いようです。

過去帳を新たに作成・記入する場合の注意点

一般のお家にある過去帳に記入をしなければならなくなった場合は、基本的にお寺の住職にお願いすることが多いです。お寺の住職に書いてもらう場合は、お礼だけで良いという意見もあれば、お布施を渡すケースもあるようなので、それはお寺に直接聞いてみてもいいと思います。通常は1〜5万円程度のお布施を渡すことが多いようです。しかし必ずお寺の住職にお願いしなければならないというわけではありません。

多くの場合、お寺に頼めば内容に間違いが生じることがないという理由から、お寺にお願いしているようですが、きちんと過去帳に書く内容に関する資料等があり、身内などに筆耕が得意な方がいれば、その方にお願いしても構わないものだということです。

写経

在家の過去帳であればご自身で書いてもOK

それに在家(今回であれば過去帳を先祖代々記録しているお家の人)の過去帳というのは、その家の代々の記録となるので、ご自身で書かれても良いでしょう。自分の家の先祖代々の記録なわけですから、自分でしっかり管理をしながら記入していくというのも大切なことだと思います。なお、なんらかの理由で寺院への依頼や自筆が難しいという場合は、過去帳の記入を代行する業者に依頼するのも一つの方法でしょう。

ちなみに、先程出てきた檀家さんとは、お寺にお布施などを渡して仏事をお願いする側のことを言います。檀家の制度自体は歴史が長いものですが、現在ではそのお寺に一族の墓があるために、お布施を渡してその墓に関連する行事を頼むことで檀家と寺との関係が維持される、という場合も多いようです。簡単にいうと、そのお布施でお寺は維持されていきますから、お寺のスポンサーのようなものでしょうか。

お寺

まとめ

いかがでしたか?このように、「過去帳」と「家系図」では、そもそも根本的な違いがあるのがわかって頂けたのではないでしょうか。家系図は、その家の代々の血の繋がりや、親族関係を全体的に見ることができるものですが、過去帳については、その家に先祖代々つながれてきた、故人の情報や戒名等が記録されたものと思って良いでしょう。

家系図だけでは、その人その人の細かい記載が、スペース的な問題から、全部の情報を掲載できませんが、過去帳があることによって、ご先祖様である方の情報を知ることができるのです。過去帳をたどれば、名前や享年、亡くなった時の年月日などの情報を通して、それぞれの人々の存在がより実感を持って感じられてきます。少しタイムスリップしたような気持ちになりそうですね。この過去帳が欲しいという方や、これから作ってみようと思われる方は、作ってみても良いと思います。更に過去帳ではなく、家系図としてなんとか1人1人の情報をまとめたいと思われるのでしたら、家系図の表とは別に、家系譜を作ることもできます。

家系譜とは、家系図に記載できなかった情報などを、自由に記載することが可能となっています。 ですので、ここに戒名や本籍地、没年月日などを記載しても良いでしょう。なお、家系譜では巻物や系本の形式を取ることが一般的なことから、スペースに余裕があり、情報を後から追記することも可能です。そのため、長い期間にわたって利用することができることが大きなメリットとなっています。

以上のように、家系図と過去帳は似た部分もありますが、その作られた目的が違うことから、様々な違いがあることがご理解いただけたかと思います。

家系図や家系譜にも興味を持たれた方は、当社も含め、これらの作成を請け負っている業者もいますので、ご相談してみることをオススメします。