家庭裁判所が認知する遺言書の件数は、1割未満
家族に不幸があった時、葬儀の段取りや弔問客への対応、役所や金融機関で発生するさまざまな手続き、と悲しみに暮れる時間がないくらい、たいへん多忙な日々を過ごすことになります。それらが一段落すると、すぐに考えなければいけないのは相続のことです。
相続の最初のステップは、被相続者(亡くなった方)の遺言書があるのかないのかの確定です。「遺言状」とは、被相続者が財産・資産などの相続の分配方法を定めることができる文書。「遺言書」という単語とそのくらいの知識はどなたでもあると思いますが、日本人にはあまり作成する習慣がないようで、家庭裁判所が認知する遺言書の件数は、亡くなった方の1割にも満たないのだそうです。
よく「一筆書いて誰かに託せばいい」といったような話を聞くこともありますが、実際には必要事項が守られてないため無効になってしまったり、家庭裁判所の検認をもらったり、証人の立ち合いが必要になったりと、煩雑なことが多いのも事実です。そうしたことから、どうしても「元気な内はまだいいか」と先送りになってしまい作成しなかった、というケースが大半を占めるのではないでしょうか。
法定相続人とは誰のこと? 順位と範囲があるとは?
遺言書があれば「指定相続分」という被相続人の意思に則った分配がされる一方、遺言書が存在しない場合は「法定相続分」といって民法で定められた方法で法定相続人に分配されることになります。
その場合の「法定相続人」とは誰のことになるのでしょう。その前に、法定相続人には順位があり、高い順位の人から順番に相続して、相続する範囲も法律で決められているということを覚えておいてください。
まず、被相続人に配偶者がいた場合「配偶者は順位に関係なく常に相続人」になります。配偶者以外に法定相続人がいなければ、法定相続人は配偶者だけということです。
続いて「第1順位の法定相続人は被相続人の子」となります。複数の子がいる場合は子の数の頭割りで計算されます。法定相続分は配偶者と子が半分ずつ。もし配偶者と3人の子がいる場合は、配偶者1/2・子1/2×1/3で子ひとりあたり1/6が法定相続分になる計算です。
「第2順位の法定相続人は被相続人の親」です。相続人に子も孫もいない場合は、親が法定相続人となります。被相続人に配偶者と両親がいた場合の法定相続分は、配偶者2/3・両親は1/3×1/2で1/6ずつです。
「第3順位の法定相続人は被相続人の兄弟姉妹」。被相続人に子や孫、親や祖父母がいない場合は兄弟姉妹が法定相続人となります。被相続人に配偶者と兄弟2人がいた場合は、配偶者3/4・兄弟が1/4×1/2でそれぞれ1/8が法定相続分です。
相続の際に、家系図があるとスムーズ
そのほかに、法定相続人の立場にあるはずの親族が被相続人より先に亡くなっていた場合、法定相続人の子が「代襲相続人」となって相続します。例えば被相続人の子が先に亡くなっており、孫がいれば代襲相続人となる、などです。このように民法では相続に関してさまざまなケースを想定して、細かく相続人や相続を受けられる範囲などを決めています。
相続の際には、被相続人の相続財産や資産の特定と併せて、法定相続人の特定を急がなければなりません。相続関係の調査には、戸籍を見て相関図を作成するところから始めるのが一般的です。法定相続人が特定されれば、全員が出席して遺産分割協議が行われます。
この段階では話が具体的な分割の内容に及んでいくので、事前に行われる法定相続人の特定まではスムーズに行きたいところです。その際にもし家系図があれば、だいたいの関係が把握できるのでとても参考になります。
ただし、家系図は事実証明文書にはなりません。公的な文書である戸籍を調査することで被相続人を確定させなければならないため、家系図だけで法定相続人を特定しないように注意する必要があります。