日本でも家系図作りを趣味とする方は徐々に増えてきていますが、まだまだマイナーな趣味にとどまっているのが現状だといえます。一方で、世界的にみると、家系図作りは欧米を中心として、トップ3に入るようなメジャーな趣味として広く受け入れられています。
特に家系図作りが最も盛んな国であるアメリカでは、Ancestry、My Heritage、Storiedなどに代表される、有力企業によって家系図作りの市場が拡大していきました。アメリカに少しでも滞在したことのある方であれば、これらの企業をご存知の方も多いのではないでしょうか。
一方で、このような企業が誕生するはるか前から、世界の多くの家系図作りに携わってきた国際組織、世界最大のオンライン家系図「ファミリーサーチ」について、ご存知の方は(日本では)少ないと思います。しかし、日本を含めた世界の家系図業界を語る上で「FamilySearch」の存在は非常に大きいものがあります。今でも業界をまとめるリーダーとして世界中の多くの企業のネットワークのハブとなっているからです。
本記事では著者(家樹株式会社|田代)のアメリカ・ソルトレイクシティ視察で得た知見も踏まえ、「ファミリーサーチ」について詳しく解説します。
目次
FamilySearchとは?
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ファミリーサーチ(FamilySearch)は、世界最大の系図記録を扱う国際非営利団体(及びWEBサービス・ソフトウェア)です。いわば世界の家系図業界・技術をリードする国際的な団体です。あくまで非営利組織であり、AncestryやMyHeritageのような営利企業ではありませんので、積極的な広告宣伝などは行っていませんが、数千人が所属するといわれる非常に大きな組織で、家系図業界の人であれば知らない人はいないといえるような存在です。
ルーツテックの主催団体として有名
ユタ州ソルトレイクにある、ソルト・パレス・コンベンションセンターで年に1度開かれる世界最大の家族歴史技術会議「ルーツテック(RootsTech)」の主催団体であることでも知られています。
この「ルーツテック(RootsTech)」は2011年から毎年開催され、多くの企業・団体が出展し、家系図業界の発展に大きく寄与してきた世界一の家系図イベントです。2023年には日本企業として初めて家樹株式会社が招待され、参加しましたが、想像以上のスケールと先祖探究の最先端技術には驚かされるものがあります。
ルーツテックでは世界の家系図市場のスケールの大きさに圧倒されますが、日本の家系図市場のポテンシャルにも確信が持てるようになる非常に有意義なイベントです。我々のような家系図に携わる人・事業者はどこかで必ずファミリーサーチのお世話になっている。そんな存在がFamilySearchだといえます。
世界最大のオンライン家系図|ファミリーサーチ
https://www.familysearch.org/ja/
ファミリーサーチとは、FamilySearch Internationalが開発運営する世界最大のオンライン家系図ソフトウェア(WEBサービス)です。「オンライン家系図」という言葉はあまり聞き慣れないかもしれませんが、いわばWEBブラウザでログインして自分の先祖の情報を入力し、家系図を作成・保存できるWEBサービス(Software as a Service)のことをいいます。パソコンだけでなく、スマートフォンアプリでも利用することができます。
このファミリーサーチは利用者数の多さもさることながら、単なる「家系図が作れるアプリ」とは異なる特徴が多くあります。
ファミリーサーチの特徴
- 世界中から年間2億1700万人のアクセス
- 240カ国以上の国々で利用されている
- 14億6000万人の記録を検索可能
- 24億8000万件の情報源
- 163億以上の検索可能な名前と画像
- 240万巻以上のデジタル化されたマイクロフィルム
- 555,009冊のオンライン・デジタル書籍
このように、ファミリーサーチでできることは多種多様。自分の家系図を入力する基本的な機能に加えて、上に紹介したような膨大な情報へのアクセスが可能です。最新技術が実装された最先端のWEBサービスのため、日本の家系図ファンの方はもちろん、弊社のようなプロの家系図業者でも利用しています。
膨大な資料のデジタル化を行ってきた組織
ファミリーサーチではWEB上で膨大な情報へのアクセスが可能です。しかし、その裏を返せばFamilySearch Internationalが莫大な費用と年月を掛けて資料をスキャン・デジタル化してきたということでもあります。
「163億以上の検索可能な名前と画像」、「240万巻以上のデジタル化されたマイクロフィルム」、「555,009冊のオンライン・デジタル書籍」と聞くだけでもすごい量だとわかります。これはこれまでの長い歴史の中で積み重ねられた多くのプロジェクトの成果といえるべきものです。これだけでも、ただ1つのWEBサービスを開発した組織というだけではない!ということがご理解いただけるのではないでしょうか。
世界中の公的な文書館・アーキビストとのネットワーク
先んじて紹介したイベント「ルーツテック」では家系図を趣味とする方、系図学者、系図事業者など、多種多様な方がイベントに訪れますが、この資料デジタル化のプロである、アーキビストや公的な文書館の方も多く招待され、最新のスキャン・デジタル化技術についてディスカッションが行われています。
オンラインで人物の情報を検索するためには、文書のスキャンとインデックス化がされていなければならないわけですから、このサービスの根幹を支えているアーキビストの方は、業界の中でもとりわけ尊敬されているのです。
家系図を共有する!?という発想
オンライン家系図「ファミリーサーチ」の大きな特徴として、“家系図を共有できる”という機能があります。日本では「家系図は家で保管しておくもの」という考え方が根強いですが、海外、特に移民国家であるアメリカでは家系図を共有し、親戚どうしがつながることを喜びとする文化があります。
今の時代で先祖を共通する人と出会った場合、「従兄弟(いとこ)どうし」が出会うということになるのですが、その従兄弟が2番目の従兄弟(2nd Cousin)、5番目の従兄弟(5th Cousin)、といったようにどの程度関係が離れているかによって関係性を表すようになっています。DNA検査では、自分のDNAの値と他人のDNAの値がどの程度一致しているかによって、関係性を測ることができます。つまり、DNA検査では自分のDNAと他人のDNAを比較することによって、初めて意味をなすということです。
DNA検査が「いとこ」を増やした?
家系図作りでDNA検査が普及したことが、従兄弟どうしがつながることを爆発的に可能にしました。驚くべきことに、家系図イベント「ルーツテック」では、この「従兄弟どうし(I`M WITH MY COUSINS)」で記念写真を取れるブースなども用意されています。このような感覚は日本人からは想像しづらいものですが、改めて人とのつながりが得られるのは、国籍を問わず、誰でも嬉しいことなのではないでしょうか。
個人情報は大丈夫?
家系図を共有してしまったら、個人情報の流出が心配・・・そう思って当然です。もちろんファミリーサーチでも個人情報保護の重要性は理解していて、生きている方(生者)の情報は共有されず、その人物を入力した自分のアカウントだけが閲覧できる仕様になっています。
具体的には、人物の情報を登録する際に、「死者」と「生者」いずれかのステータスを選択できるようになっており、その際に「死者」を選択すると情報が共有される仕様です。登録された人物の生死について、ファミリーサーチが自動的に判定するような仕様ではないため、登録時に気をつけていれば意図せず個人情報が共有されてしまう心配はありません。
個人の記録は,死亡日が追加された後に公開になります。ファミリーツリーでは、記録に生者と表示されている個人が死亡している可能性があるかどうかは算定しません。システムが出生年に基づいて状況を死者に変更することはありません。
ファミリーツリーではどのように生存している人々のプライバシーを保護しますか。
個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)
(定義)
第二条 この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
このように、個人情報保護法では保護されるべき「個人情報」とは「生存する個人に関する情報」と定義されていますので、死者の情報は形式的には保護の対象外です。しかし、死者に関する情報であっても、その情報が遺族等の生存する個人に関する情報でもある場合(例:死者の相続財産等に関する情報など)は、遺族等に関する「個人情報」として、法の保護の対象となる場合があります。
利用するにあたっては、このことを踏まえて自分なりの利用ルールを決める必要があるといえます(どの人物まで入力するか、財産に関する情報は入力しない等)。同時に、ファミリーサーチのプライバシーポリシーを読み、適切な設定をしておきましょう。
全て無料で利用できる!
ファミリーサーチが持つデータベースの中には、日本人の先祖探しに有益なものも多く含まれています。そして、この全てを“無料で”利用することができます。さらに自分の家系図をWEB上に残しておく“オンライン家系図”は、自分が作った家系図を“永久に”かつ無料で保存する方法としても注目すべき技術でもあります。
何で無料???
FamilySearch Internationalは非営利団体ですから、ユーザーからお金をとらずに無料で利用できる!というのはなんとなく理解できます。しかし、何をするにもお金がかかる御時世で、「何で全部無料で使えるの!?何かウラがあるんじゃないの?」と思われる方も多いのではないかと思います。実はこれにはスポンサー団体の存在が関係しています。
末日聖徒イエス・キリスト教会との関係
FamilySearch Internationalのメインスポンサーは、かつてはモルモン教と呼ばれていた末日聖徒イエス・キリスト教会という宗教団体で、この教会の莫大な資金力を背景に運営されているので、全部無料で使える!ということなのです。日本ではそもそもキリスト教自体がそれほど普及していないため、その宗派の一つであるイエス・キリスト教会もよく知らない…という方が多いと思いますが、世界では1500万人以上の教会員がいるとてもメジャーな宗教です。
ちなみに、2012年のアメリカ大統領選挙で共和党の大統領候補として民主党のオバマ大統領と争ったミット・ロムニー(Mitt Romney)氏や、元日本マイクロソフト社長の平野拓也氏もイエス・キリスト教会の教会員として著名な人物です。ちなみにこのお二人ともイエス・キリスト教会が運営するブリガムヤング大学(ユタ州プロボ)出身です。ブリガムヤング大学は全米の中でも名門大学と認知されていながら学費がとても安く、安全に学生生活が送れるため外国人の留学先としても近年注目されています。
アメリカのソルトレイクシティが本拠地
イエス・キリスト教会の本拠地は米国ユタ州のソルトレイクシティで、2002年には冬季オリンピック(ソルトレイクシティオリンピック)が開催されたことでも知られています。日本との関係でいうと、長野県松本市と姉妹都市提携をしています。
ウィキペディアを読んでいただいてもわかるとおり、このソルトレイクシティという都市ごと教会員が切り開いた場所として知られています。日本でいえば1つの県位の大きさがありますから、アメリカのスケールの大きさが感じられます。この場所で、世界最大の家系図イベント「ルーツテック」も毎年開催されており、さらに多くの家系図企業が本社を置いているため、いわば世界の家系図業界の中心地となっているともいえます。
イエス・キリスト教会では教義として家族歴史を探求することの大切さを説いています。さらに先祖の名前が書かれた家系図が必要になる正式な儀式があるため、教会員は先祖の名前を調べ、家系図を作ることを推奨されています。そのため、教会の中で家系図を作るサポートが行われてきた長い歴史を持ちます。
そしてその家系図作り(家族歴史)の部門を、教会員ではない一般の方でも利用できる独立した団体(非営利組織)へと発展させたのがFamilySearchということになります。世界最大の家系図企業である「Ancestry」も元を辿ればイエス・キリスト教会の教会員が立ち上げた出版社でした。このように、今の家系図業界のルーツがこの教会にあるといっても過言ではありません。
ファミリーサーチは安全?
宗教団体の話が出てくると、「ファミリーサーチに登録すると宗教の勧誘を受けるんじゃないの!?」なんて心配する方もいると思いますが、その心配は無用です。私は教会員ではありませんし、FamilySearch Internationalの方ともつながりがありますが、一度も宗教の話をされたことはありません。また、ファミリーサーチを利用する我々の周囲でもそのような話を全く聞きません。そして、資金潤沢な非営利組織が運営しているわけですから、お金がかかるようなことも一切ありません。
そもそもFamilySearch Internationalは教会とは分離した組織ですし、世界的に見てもファミリーサーチのユーザーは教会員ではない一般のユーザーの方が多いのが実情で、今では完全に一般向けの無料WEBサービスになっているようです。
私自身もファミリーサーチを利用して戸籍にも文献にも出てこなかった江戸時代の先祖を見つけることができました。これは日本の家系図作りの基本テクニックである戸籍調査、文献調査、聞取調査、現地調査などでは辿り着けない貴重な成果に違いありません。そのため、誰にとっても我々日本人が先祖を調べる一つの手段として、本ツールを活用するメリットは大いにあると思います。
ファミリーサーチを使うメリットとは
ファミリーサーチについて詳しく解説してきましたが、機能がたくさんあるので、どう活用したらいいのかイメージがつかめなかった方もいると思います。メリットをまとめると、次のようなものが挙げられます。
メリットまとめ
- キレイな家系図が描ける
- 家族写真も保存できる
- 口伝の伝承(音声)も保存できる
- 自分の先祖の名前を検索できる
- 膨大な資料の中から先祖の記録を探すことができる
- 無料で永久に家系図を保存できる
ファミリーサーチは毎年多くの機能が追加され、進化を続けていますが、最初は海外風のオシャレな家系図を作るのを目的にしてみてもいいと思います。縦型、横型、扇形など、様々なタイプで家系図を出力することができます。
日本の家系図というと、巻物とか古文書などの古い伝統的なものがイメージされますが、海外の家系図を見ると、とても現代的でオシャレなデザインのものが多いので、一度ネットで探索してみることをオススメします。
その他の機能として、音声も保存することができます。具体的には家族が思い出を振り返って話したり、祖父母が話す伝承を録音で残すことができることになります。ソルトレイクシティにあるファミリーサーチ図書館では、音声やビデオを収録するための専用の部屋なども用意されていました。今後のバージョンアップで動画の保存にも対応していくのかもしれません。
永久に保存される家系図として
私達は系図の保存方法の一つの選択肢として、ファミリーサーチを利用することに注目しています。
日本で家系図作りをしている方にとっては「どういう形で家系図を保存するか」という問題があります。紙の資料にまとめておく方法だと、天災で消失してしまったり、紛失してしまうリスクがあります。1冊の本にして、国立国会図書館に納本するという方法もありますが、本にするためにはまず自分に文章力が必要で、さらにそれなりの文量を書かなければなりません。それを業者に依頼すればお金がたくさんかかってしまいます。
また、お墓に刻む方法だとどうしても残せる情報が限られてしまいますし、子孫がお墓を維持できなくなってしまったり(墓じまい)、墓石の風化などによって消失してしまう可能性もあります。データで保管する方法もありますが、これも末代に渡って引き継がれるようにデータをやり取りするのは大変なことです。
つまり、どの方法も家系図を永久に保存されることにはならないのです。
未来の人へバトンを渡せる!?
その点、ファミリーサーチのようなオンライン家系図に先祖の情報を入力しておく方法はどうでしょうか。この方法であれば全く費用がかからず、手軽に家系図を残しておくことができます。家系図は共有されますが、それは逆に共有されるメリットも大きなものがあります。
それは、いつか自分の調べた貴重な先祖の情報を未来の人が探し出してくれるかもしれないというメリットです。家系図を趣味としている人は、ほとんどの場合、独りで作業していることと思います。かなりの時間を掛けて取り組んでいても、「自分で調べたことが何の役に立つのだろう?」と、ふと思うときもあるのではないでしょうか。
そんな方は、オンライン家系図に情報を入力しておくことで、情報を永久に保存できることになります。これは家系図の残し方に悩んでいる方にとって、未来の人へバトンを渡す、とってもロマン溢れる保存方法になるのではないでしょうか。
もしご興味があれば、まず登録してスタートしてみて下さい!