『ルーツ(Roots)』というテレビドラマをご存知でしょうか。1970年代後半のアメリカに、空前のブームを巻き起こしたあるドラマがありました。そのドラマは『ルーツ(ROOTS)』。アフリカ系アメリカ人の作者が、奴隷としてアフリカ大陸から連れてこられた先祖クンタ・キンテより始まる、子孫の系譜を描いた小説が原作となっています。

同作品は半年後に日本でも放映され、やはり大変な人気を博しました。今回は、ドラマ『ルーツ』およびその続編の『ルーツ2』の内容とその魅力、そしてこれらのドラマがきっかけでブームとなった「自身のルーツ」探しの方法についても解説したいと思います。

空前のブームを巻き起こした、ドラマ『ルーツ』

『ルーツ(Roots)』は、1977年に制作されその年に放送されたアメリカのドラマ作品です。全米ネット局ABCで放送されると平均視聴率は44.9%(エーシーニールセン調べ、全米視聴率)を記録。なんと1億3,000万人が視たという計算になるほど、空前のヒット作となりました。

日本でも半年遅れて放送されましたが、日曜日から8夜連続ゴールデンタイムという集中的な放送で、平均視聴率23.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)、最終回は28.6%(同)という高視聴率を記録しました。ちなみに『ルーツ』放映の際、スポンサーにはなんとライバル同士の自動車会社2社がその名を連ねていました。

そのこと1つを取ってみても、このドラマに対する注目度がどれほど高かったかが伺えます。にわかに『ルーツ』ブームが巻き起こり、主人公「クンタ・キンテ」の名前を知らない人はいないほどでした。ビデオ録画がまだ一般的ではなかった時代だけに、1話たりとも見逃してはならぬと家路を急がなければならず、定時退社組が増え見事なまでに「働き方改革」が実現したという逸話があるほどです。また、このドラマの放送は、ルーツ(roots)という英単語が日本人に広く知れ渡り、一般化していくきっかけともなりました。

自分のルーツを知ろう

そんな社会現象まで巻き起こした『ルーツ』とは、いったいどんな作品だったのでしょうか。原作はアフリカ系アメリカ人作家のアレックス・ヘイリー。原題は『Roots: The Saga of an American Family』です。自身の一族の歴史を辿るドキュメンタリーとフィクションをミックスした構成となっています。

なお、この原作は初版本でページ数にして約700ページにも渡る長編小説です。また、この小説は37の言語に翻訳され、さらに1977年にはピューリッツァー賞を受賞しました。ちなみに1760年代の日本は江戸時代の中頃にあたり、老中である田沼意次が権勢をふるっていた時代です。そして1870年代の日本は既に明治時代に入り、明治維新により始まった新しい国作りが進められている最中でした。

西アフリカの小国ガンビアに生まれ、1767年にアメリカ合衆国に奴隷として連れて来られたヘイリーの6代前にあたる先祖クンタ・キンテを始祖に、子孫の人間模様が描かれています。舞台となる時代は1760年代から1870年代頃までの約100年。

奴隷制下にあったアメリカ合衆国の暗い時代に南部の農園で暮らす黒人奴隷の苦労、葛藤、人間愛が交錯する中、クンタ・キンテの娘キジー、その息子のチキン・ジョージ、さらに息子のトム・ハービーとその子供まで5世代が登場します。クンタ・キンテを始めとする一族が、差別や迫害に遭いながらも誇り高く生きていく様子が描かれています。

彼らの日々は、当時アメリカ合衆国が経験してきた時代や情勢の変化に常に影響されていました。その流れにより、やがて奴隷として過ごしてきた彼らの生活にも変化が訪れます。南北戦争終結とともに1865年に奴隷制は廃止され、少しずつではありますが黒人たちにも自由が与えられました。しかし、白人至上主義の過激な秘密結社による迫害があるなど、物語が終わった後も黒人にとっては近年に至るまで辛い時代はまだまだ続きます。

最後に、物語の視点は作者の元へ帰ってきます。作者のアレックス・ヘイリーは幼い頃に、祖母でありクンタ・キンテの曾曾孫にあたる、シンシアから家族の歴史の話を聞かされていたことを回想します。その記憶を呼び戻して1963年から12年間掛けて執筆したのが『Roots: The Saga of an American Family』であると語り、ドラマはフィナーレを迎えました。

続編やリメイク版にも注目

『ルーツ』の大ヒットを受けて、すぐに続編が制作されます。『ルーツ2』(英語題:Roots The Next Generations)は、アメリカ合衆国では1979年2月に、日本でも同年の9月から10月に掛けて放送されました。舞台は奴隷解放後、チキン・ジョージが買ったテネシーの土地に家族で移り住むところから始まります。

前作同様、やはりこちらの作品も、アメリカ史の変遷に大きく影響されながらも、彼らが力強く生き抜いていくさまが印象的です。その間の世界大恐慌、2度の世界大戦といった激動を乗り越えて、クンタ・キンテの子孫たちがどうやって自由と人権を勝ち取って行ったかが、作者アレックス・ヘイリーの目線で描かれています。

公民権運動などに代表されるようなアメリカにおける人権や人種差別の解消に関わる出来事は、20世紀半ばに至るまで決して平穏なものではありませんでした。今の時代となっては信じられないような出来事やシーンも多く登場するため、フィクションに思えてしまいますが、事実に若干のフィクションを加えた作品ということで、基本的には実際の出来事が大半とのことなのです。人権をめぐる激しいデモや暴動、そしてそれに対する鎮圧活動など、流血の惨事となってしまうようなことも当時のアメリカでは決して珍しいものではありませんでした。

「自由」とは、「平和」とは、「人種差別」とはどういうものなのか。今を生きる日本人にとっては意識することが少ない事柄について多くを考えさせられる作品になっています。『ルーツ』は2016年に新たなキャストでA&Eネットワーク、ライフタイム、ヒストリーのケーブルテレビ3社によってリメイクされました。

オリジナル版でクンタ・キンテを演じたレヴァー・バートンが共同制作責任者を務めています。なお、リメイクに際しては一流の監督を数話ごとに起用することに加え、近年の研究で新たに明らかとなった事実が脚本に盛り込まれました。さらに技術面でも、最新のCG技術や特殊メイクを採用し、当時の状況がよりリアルに再現されています。日本でも同年8月にCSヒストリーチャンネルで放送されました。それに先立って、前年と同年1月にBS放送でオリジナル版の『ルーツ』が再放送され、話題になったのも記憶に新しいところです。

作者ヘイリーのルーツ探しがキッカケに

この小説は、作者による自分自身の起源を探る旅から始まりました。『Roots: The Saga of an American Family』執筆にあたって、アレックス・ヘイリーのルーツを探る旅は遠い祖国であるガンビアへと渡ります。彼はクンタ・キンテ生誕の地と言われているジュフレ村を訪れました。キンテ一族の語り部や遠い親戚を辿って聞き取りを重ねて、一族の姿を形にしていったとされています。

当然、戸籍や家系図といったような文書がなかったことで、その取材は困難を極めたのではないでしょうか。まさに先祖に出会うための執念と言っていいと思います。実際、彼はこの記念すべき作品を著すために、調査とそれに伴う旅行、それに執筆に12年もの歳月を費やしました。そしてその執念によって、世界に一大センセーションを巻き起こした作品が世に送り出される結果となったのです。

まとめ

いかがでしたか?ここまでドラマ『ルーツ』について解説をお読みいただきました。この作品が日本においても大変な人気を博したこと、また多くの人々に大変な影響を与えたことが理解していただけたかと思います。わたしたちは日常的に家系のことや、何かの起源のことを「ルーツ」と言葉を使うようになっています。それもこの作者ヘイリーのルーツ探しに始まり、テレビドラマ『ルーツ』の大ヒットが社会現象となって定着した背景があったことを覚えておきたいものです。この作品を通して、自分のルーツに興味を持つ方も多かったといわれています。

最後に、私たちが自分のルーツを探っていくためにはどうすればよいのかを考えてみましょう。私たちの住む日本で、自分の系譜をたどる時に便利なものは何を差し置いてもまずは戸籍です。因みに戸籍は、小家族の単位(戸)を基準として人々を把握しようとした中国発祥のシステムです。

その後はさまざまな変遷を経て、中華文明の影響を多分に受けていた東アジア特有の制度として存在するにいたっています。日本における現在の戸籍制度は、血縁や婚姻単位の国民登録制度と呼ぶことができるでしょう。そのため、戸籍は自分のルーツを求める時にはうってつけなのです。日本人は、戸籍を辿ることでアメリカより簡単にルーツ探しができますので、自分のルーツに興味を持った方はまず戸籍を辿って作る家系図作りを始めてみることをおすすめします。