海外の家系図事情を考える

日本では家系図作りの人気が少しずつ高まって、家系図作成のサービスや専用アプリも充実してきました。一過性のブームではなく、いよいよ定着しそうな勢いがあると言っていいかもしれません。では海外はどうでしょうか。

日本のような戸籍制度があるのは韓国と台湾だけだといわれています。名前の成り立ちや家族の在り方も国や民族によってさまざま。海外で先祖との繋がりや名前のルーツを探ってゆくのにはどうしたらよいのでしょうか。いろいろな疑問が湧いてきます。そこで今回は、アメリカを中心とした海外の家系図事情についてご紹介します。

Family Treeとはどんな木?

家系図のことを英語では「Family Tree」といいます。なぜ「木」なのでしょうか。それは家系図を広げた時に目に飛び込んでくる家族の一人一人を繋げる線。まさに大地に深く広く根を広げ、太い幹から天空に向けて枝を広げる大樹の姿そのものに見えるからに違いないでしょう。日立の「この木なんの木」で登場する大樹をイメージしていただければわかりやすいと思います。

自分を幹に例えると、枝分かれした2本は両親、さらに祖父母、曽祖父母……と枝を広げてゆく木の姿をイメージしてもいいでしょう。あるいは、地中に深く広がる根が幹である自分を支えてくれていて、その栄養を受けて子や孫、子孫である枝を広げてゆく姿をイメージするものいいかもしれません。

日本の家系図との違いを生む名前に注目

ではアメリカのFamily Tree。日本の家系図とはどんなところが違うのでしょうか。かつての日本の家系図とは自分の苗字を辿ってゆくのが一般的でした。今でもその名残はあって家系図を作ろうと決めたら、調査の範囲を一気に広げるのではなく、まずは自分の苗字で辿れるところまで調べてゆこうという方針で始めるものです。これは戦前まで続いていた日本の「家制度」。人単位で戸籍が形成されるのではなく、男系を中心とした家単位で物事が動いていたシステムに由来するのではないでしょうか。

日本人の名前は「苗字」すなわち姓あるいは氏と、個人を特定する「名前」あるいは名で構成されています。養子縁組などで女性の苗字を継ぐこともありますが、苗字は家・家系を表しています。ということは、名前から母系の流れはわからないのです。かなり親しい友人でもその人のお母さんの旧姓を知っているということはまずないでしょう。

海外では当たり前のミドルネーム

アメリカを始め欧米などでは「ミドルネーム」をつける習慣があって、ほとんどの場合で母親の姓がこれにあたります。そのため、男系・女系という考え方はなく「自分は◯◯(ファーストネーム)で、お母さんの▽▽(ミドルネーム)とお父さんの△△(ラストネーム)の子です」ということがはっきりわかるようになっているのです。

そういったことからも、アメリカの家系図は父方・母方を均等に調べていくのが当たり前になっています。また日本のような戸籍といった公文書が存在せず、家制度が敷かれていたこともないアメリカですが、自然と家族の繋がりを大切にする国民性が宿っています。家系のことをいろいろと調べる以前に、先祖に関する多くの情報が家族の中で共有されている、ということもあるようです。そのため、正確さを深く追求するのではなく、とてもカジュアルな感覚で家系図作りを楽しんでいると言っていいのかもしれません。

アメリカの最先端の家系調査サービスとは

さて、家系に関する情報が家族の中で共有されているとはいえ、事実に基づいた客観的で正確な情報を得たいというアメリカ国民も多いでしょう。じつは戸籍制度のないアメリカでは、民間のインターネットサービスがたいへん充実しているのです。その代表的なサービスが「Ancestry.com(アンセストリー・ドットコム)」。1983年に出版社としてスタートし、現在はデータベースに1千万人以上のDNAサンプルを持ち、30カ国以上でサービスを展開しています。

自分の家系を知りたい場合に、必要な情報を入力することで、解析につながるさまざまな資料の在りかを知らせてくれる有料サービスが人気だそうです。移民の国であるアメリカでは自分のルーツを探ること、それはすなわちどの民族の血が流れているのか、ということに対する好奇心も大きな動機のひとつになっているのでしょう。

アメリカでは、こうしたルーツ解析をするための民間のサービスが他にもいくつか存在しているようです。中でも最大級とされるのが非営利団体として1894年に設立されたユタ系図協会が展開する「FamilySearch(ファミリーサーチ)」。全世界の10億人以上の名前が登録されていて、さまざまな家系に関する情報がマイクロフィルム化され、永久保存ができる体勢で保管しているのだそうです。ここには日本人についての貴重な情報も収蔵されているとのことで、情報提供には日本の政府機関も協力しているというから驚いてしまいます。

ルーツ探しは万国共通

いつの日か、海外のこうした巨大な検索サービスを利用して、わたしたち日本人のルーツを解明させる時が来るのかもしれません。自分のルーツを辿ってみたいという知的好奇心は万国共通と言えるでしょう。日本のような島国で、戸籍制度があればルーツを辿るのは難しくありませんが、移民等の国境を越える人の異動が盛んな海外ではルーツ探しも一筋縄ではいかず、自分の家系を知りたい欲求も切実なものになります。あなたも先祖に出会う旅を始めて、人生をより豊かなものにしてはいかがでしょうか。