名字の変更はできるのか?

生まれながらにして、誰もが背負っている名字。どの家系に生まれたかという、証のような存在が名字です。幼少期は名前で呼ばれることが多く、さらに家族の中だけで暮らしているため、名字で呼ばれることはほとんどなく、意識することも少ないことと思います。 

しかし、小学校や中学校という家族の外へデビューを果たすと、愛称や名前よりも名字で呼ばれるケースが増えてきます。自分の名字を気に入っている方は気にならないと思いますが、珍しい名字の場合や特徴的な名字の方の場合は自分の名字に対して好きか嫌いといった感情が芽生えたりするかもしれません。 

そんな中、誰でも一度は「自分の名字って変えられるのかな?」と、ふと思ったことがあるのではないでしょうか?
さらに、結婚や離婚、養子縁組などで名字が変わった方が、元の名字に戻せないのかな?と思うこともあるのではないかと思います。 

ただ、いわゆる好き嫌いだけで名字は変えることができるのでしょうか。そんな名字について、この記事では「名字を変える」ことについての色々を、ご紹介していきます。 

名字とは法律用語では「氏(うじ)」といいます。そこで、ここから先は法律の引用もあるので「名字(苗字)」と「氏」と同じ意味で表記します。「氏」の読み方は「し」ではなく「うじ」です。

<名字が変わる2つのケース>

  1. ・家族関係の変化によって当然に名字が変わる場合
  2. ・自分の意志に基づいて名字を変える場合 

自動的に名字が変わる場合(氏の変動)

名字が変わるということは通常、自分の意思に関わらず、自身の結婚や離婚、養子縁組といった「家族関係の変化によって当然に名字が変わる場合」が多いものです。婚姻・離婚・養子縁組・離縁の場合によって氏が変更になるのは、法律上当然の変更で「氏の変動」といいます。 

婚姻の場合、民法750条によって「夫又は妻の氏」にしなければならないと定められていて、どちらか一方の氏に統一する必要があります。一般的な感覚だと、結婚の際には妻が夫の氏に変更するケースが多いといえますが、法律上は夫が妻の氏に変更する逆のパターンでも全く構わないということです。 

近年話題になることが多い「夫婦別姓」は、現状の法律ではこの一文によって禁止されているということになります。実は、日本の戸籍制度は“同じ名字の人しか同じ戸籍に入れないルール”になっています(同氏同籍の原則)。これは夫婦の場合に限ったことではなく、実の親子だったとしても、名字が違えば同じ戸籍に入ることができないルールなのです。

自分の意志で名字を変える場合(氏の変更)

一方で、一定の条件を満たし、家庭裁判所の許可を得たり届出をしたりすることで、「自分の意志に基づいて名字を変える場合」もあります。

自分の意志で名字を変える7つのケース

case7

自分の意思によって氏を選んだり変更したりすることができる場合の一定条件です。これには、以下の7つのケースがありますので、順にご紹介しましょう。 

<7つのケース>

  1. 子が父または母と氏を異にする場合には、子は自分自身で家庭裁判所の許可を得て、父または母の氏を称することができる(民法791条1項) 
  2. 夫婦のいずれか一方が死亡した場合、生存配偶者が自らの意思によって婚姻前の氏に戻すこと(復氏)ができる(民法751条1項) 
  3. 離婚による復氏から婚姻中の氏(婚氏)に変更することができる(民法767条2項)
  4. 離縁による復氏から養子縁組中の氏(縁氏)に変更することができる(民法816条2項) 
  5. 外国人と婚姻した人が配偶者の氏に変更する場合、婚姻から6カ月以内であれば家庭裁判所の許可を得ずに届出で変更できる(戸籍法107条2項)
  6. 外国人と婚姻し配偶者の氏に変更した人が離婚・婚姻取り消し・配偶者の死亡いずれかののち、3カ月以内であれば、家庭裁判所の許可を得ずに届出で、変更の際に称していた氏に変更することができる(戸籍法107条3項)
  7. “やむを得ない事由”によって氏を変更したい場合、戸籍の筆頭者およびその配偶者が家庭裁判所の許可を得て届出をすることで氏の変更ができる(戸籍法107条1項) 

この7つが自分の意志で名字を変えられるケースです。1から6は、名字を変える理由もハッキリしていて、感覚的に理解できそうです。一方で、7の“やむを得ない事由”とは、実際にはどのような事由が当てはまるのか、気になった方は多いと思います。

やむを得ない事由とは

「やむを得ない事由」とは、「氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来す場合」のことをいいます。

・ 珍奇・難読・難解な名字だった場合

<変更が認められたケース>

名 字 変更が許可された理由
肴屋(さかなや) 変更申立人は実際に魚市場に勤めていたが、名字が信用してもらえずに社会生活で支障があった。子供がからかわれる理由にもなっていた
大工(だいく) 特定の職業を連想させるため、社会生活で誤解が生じる
大楢(おおなら) 「オナラ」を連想させ、珍奇・滑稽な名字とされた
仁後(にごう) 二号=「妾」を連想させ、からかわれる理由になり社会生活に支障があった

<変更が認められなかったケース>

名 字 変更が認められなかった理由
佃屋 特定の職業を連想させる名字ではない
袈裟丸 珍しい名字であるものの、社会生活で支障までは生じない

・内縁関係で長年相手方の名字を通称として使っていた場合(京都家審平成6・10・3)

・元暴力団員として周知されている者が更生する上で必要と認められる場合(宮崎家審平成8・8・5)

離婚によって名字を変えない(婚氏続称)届出を一度して15年経った後、元の婚姻前の名字(旧姓)への変更を申立てた場合(東京高判平成26・10・2)

裁判所の判断基準とは?

見ての通り、名字は個人の識別手段として重要なものだから、頻繁に変更するべきものではない!というのが裁判所の基本的な考え方です。その上で、個人的な事情をみて、特に不利益が認められる場合に限って変更を認めています。

つまり、ただ名字が珍しい、なんとなく気に入らないという理由だけでは変更が認められません。その名字であることによって“客観的にみても社会生活に支障が発生する程度”でなければいけない!ということなのです。

ただ、上に挙げた離婚時の婚氏続称の届出後の旧姓名字の変更は、比較的に緩やかに「やむを得ない事由」を判断して変更を認めているようです。離婚したら旧姓に戻すのが通常であることと、元の名字に戻すのであれば、個人の識別についてもそこまで社会的に支障は発生しないと裁判所も考えているのでしょう。

変更に必要な手続きと注意点

手続きの案内をする女性

次に、実際に名字の変更の手続きを行うための手続きについてご紹介します。

申立ができる人(申立人)

戸籍の筆頭者及びその配偶者 

申立をする場所

申立人の住所地を管轄する家庭裁判所 

必要な書類等

  1. 氏の変更許可申立書
  2. 申立人の戸籍謄本
  3. 氏の変更の理由を証する資料
  4. 同一戸籍内にある15歳以上の者の同意書
  5. 収入印紙800円分
  6. 連絡用郵便切手 

名字の変更の手続きの流れ

  1. 申立書と必要書類一式を住所地の家庭裁判所に提出する
  2. 「やむを得ない理由」を裁判官に説明し、家庭裁判所から変更許可をもらう
  3. 裁判所から発行される、審判書謄本と確定証明書を持って、市区町村役場に変更の届出をする
  4. 名字の変更が完了

上での触れたとおり、戸籍は同じ名字の人しか同じ戸籍に入ることができないルールのため、名字の変更は同じ戸籍に入っている家族全員の同意のもとで行い、変更が許可されたときには同じ戸籍の中の家族全員の名字が変わることになります。 

名前の変更をしたい場合は?

ちなみに「名」を変更したい場合も氏の変更と同じように、家庭裁判所の許可を得て役所に届け出をします。氏の変更の場合が「やむを得ない事由」であるのに対して、名の変更は「正当な事由」とされているため、名前より名字の変更の方が許可のハードルが高いといえます。名字は家族全員で共有しているものですが、名前についてはあくまで個人の識別のためのもの、という事情があるからです。

まとめ

この記事では、名字の変更についてご紹介してきました。いかがだったでしょうか。名字は社会生活で重要な識別機能があるため、容易には変更できない!ということはご理解いただけたのではないかと思います。

こうしたことから「自分の名字に馴染まないから変えたい」「もっと格好のいい名字に変えたい」というくらいの事由では、裁判所の許可が下りることは難しいといえます。 

また、名字の変更は同じ戸籍の中に入っている全員に影響するので、自分だけの問題ではない!ということもご理解いただけたと思います。ふと「名字を変えたい」と考えている方は、自分に本当に名字を変える“やむを得ない事由”があるのかどうか、同一戸籍内にいる家族が皆同意してくれるのかどうか、をしっかり話し合っておかなくてはならないといえます。 

名字はなかなか変えられないものである一方、名字は先祖から受け継いできた大切なものでもあります。名字を変える決断をする前に、自分の名字の意味や歴史について、振り返るよいきっかけにしてみて下さい。 

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